気づけばいつも探してた
今目の前にいるのはいつも穏やかで冷静な翔ではなかった。私には見せたこともない憤りをこらえる彼の姿。

苦しそうな横顔を見つめながら、本当の私の気持ちを翔がまだ知らないことに自責の念にかられる。もっと早く伝えることができていたら、また違っていたんだろうか。

だけど、こんな状況で自分の本心を翔に打ち明けるべきではないと感じていた。

竹部さんのこと、翔自身の気持ち、そして私の心の痛み。

一気に押し寄せた悩ましい事態の上に私の気持ちを伝えたりしたら、きっと翔はもっと困るような気がしたから。

「美由紀って奴の様子を見てくる。美南はここで待ってて」

翔はようやく気を取り直したかのようにベンチから立ち上がると、長く続く廊下の向こうに見えるエレベーターの方へ歩き出した。

美由紀、大丈夫なのかしら。

竹部さんの状態から、美由紀も重傷を負ってるんじゃないかと不安になる。

「待って!私も一緒に行く」

慌てて、翔の後を追った。

翔は眉をひそめて私の方を振り返る。

「顔合わせて大丈夫なの?彼氏と一緒にいた女友達だぞ」

「うん、大丈夫」

私は大きくうなずいた。

「お前の気が知れない。まぁ、俺がまた冷静さを欠くようなことがあったら美南に止めてもらうか」

翔は私の言動に全く納得がいかない様子だったけれど、半ばあきらめたようにエレベーターのボタンを押した。

エレベーターに乗り美由紀が治療を受けているという8階で降りる。

翔には大丈夫と大口叩いたものの、降り立った瞬間心臓がものすごい速さで鼓動を打ち始めた。

美由紀もたくさんの管に繋がれていたらどうしよう。

そして、どんな顔して会えばいいんだろう。

美由紀を傷つけないようにするにはどうすれば?

『神田美由紀 様』と書かれた個室の前で立ち止まる。

「本当に一緒に行くんだな?」

翔が私を見下ろし、もう一度確認した。

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