気づけばいつも探してた
私は何も言わず、扉に書かれた彼女の名前を見つめたまま頷く。

「じゃ、行くぞ」

そう言って翔が扉に手をかけたと同時にスーッと開き中から一人の看護師が出てきた。

看護師は翔の姿を見るなり、「竹部先生、お疲れ様です」と言って頭を下げる。

そっか、翔はこの病院の勤務医で、しかも院長の息子なんだものね。

看護師が知らないわけがない。

扉を静かに閉めると、翔は看護師に美由紀の様子を尋ねた。

「はい、今は容態は安定しています。事故の際、頭を強く打ったのですが特に問題なさそうです。あと、腕は打撲されていますがそれほど重くないので明後日には退院できるだろうと先ほど回診された先生も言われていました」

「そうか、それはよかった」

翔は私に顔を向け頷いた。

「本来なら事故の際は助手席側の方がひどくなるケースが多いんだけど幸いだったね」

そう言った翔に答えるように看護師が続けた。

「そうなんです。先生がおっしゃられるには、運転席にいらした竹部先生の方が重症で、おそらく衝突する際、咄嗟の判断で助手席側をかばったんだろうとのことです。よほどの思いがない限り、そういう判断は難しいらしいんですけど」

「助手席をかばった……か」

翔は小さく呟く。

竹部さんにとって大切な美由紀。

その人の命を自分の命に代えてまで守ろうっていう気持ちが働いたんだ。

ただの友人だけではそこまではできないだろう。

「ありがとう。もう行っていいよ」

翔からそう言われた看護師は頭を下げると、次の仕事が詰まっているのか急いでその場を離れた。



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