気づけばいつも探してた
そんなに大切な女性がいるのに、竹部さんはどうして私にプロポーズなんかしたりしたんだろう。

「入る?」

「ああ、うん」

翔は扉をノックし、その引き戸を開けた。

窓際にベッドが一つ置かれていて、半分上体を起こした美由紀が窓の外をぼんやり見つめていた。

大きなガーゼがはられた美由紀の頬は、大したケガではないにしろひどく痛々しい。

そのうつろな様子にすぐに声をかけることができない。

「美由紀」

それでも思いきってその横顔に向かって名前を呼ぶと、美由紀はゆっくりとこちらに顔を向けた。

私を見た瞬間、精気を失った目は大きく見開らかれ、その目から滝のように涙があふれ出す。

「ごめんなさいっ……」

そう言うと、美由紀はまるで隠れるように掛け布団で自分の顔を覆い、肩を震わせて泣きじゃくった。

思わず、駆け寄りその震える肩を抱きしめる。

「美由紀、大事に至らなくてよかった」

「そんな優しい言葉かけないで」

美由紀は泣きながら、擦る私の手の上に自分の手を重ね何度もそう言いながら泣いていた。

ひとしきり泣いた後、ようやく布団から顔を上げ、泣きはらした目で私をじっと見つめた。

いつもより腫れて赤く潤んだ目だったけど、やはり彼女は綺麗だって思ってしまう自分は相当おめでたい人間なのだろうか。

彼女の色を失った小さな唇が震える。

「ずっと、美南に本当のことが言えなかったの」

私にも自分にも言い聞かせるようにそう言った後、ふいに美由紀の視線が部屋の端に立っている翔に向けられた。





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