気づけばいつも探してた
「あなたは?」

美由紀が力なく尋ねると、翔は無表情のまま頭を下げ「竹部翔です」と名乗る。

「もしかして、あなたが竹部大の弟の翔さん?どうして美南と一緒に?」

「この度は兄のせいであなたにケガを負わせることになり申し訳ありません。美南、俺少し席を外すよ」

まだ状況を掴めない美由紀と私を残し、翔は部屋を出た。

「もしかして、美南の男友達の翔ってあの人だったの?」

「うん。実は私もつい最近知ったんだけど」

「そうだったんだ……」

美由紀は涙で頬にはりついた髪をゆっくりとかき上げ、僅かに口元を緩める。

彼女の肩にそっと手を置き、濡れた長いまつ毛を見つめながら囁いた。

「私は大丈夫だから、全部話して」

私の目を潤んだ瞳で見つめ返しながら美由紀はこくりと頷く。

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美由紀と竹部さんは薬品開発の打ち合わせで何度か顔を合わすうちにお互い惹かれ、丁度2年前に付き合うことになった。

包容力のある優しい竹部さんとの付き合いは幸せそのものでこの幸せがずっと続くことを願っていた。しかし、エリートコースを突き進む竹部さんの傍にいればいるほど、借金返済が終わらない自分自身の境遇との格差を突き付けられるようで美由紀は次第に彼との距離を置いていく。

自分の借金のことを話せば、竹部さんはなんとかしようとしてくれることはわかっていたけれど、将来有望な彼の経歴に傷をつけることになるかもしれない。

それに、借金のことを知られることも、そんなことで彼に甘えることもしたくなかった美由紀は理由は告げず竹部さんに突然別れを切り出す。

竹部さんは理由もわからず一方的に別れを告げてきた美由紀に何度も理由を尋ねたけれど、彼女は一切口を割らなかった。

竹部さんが誰か他の人を好きになれば自分も完全に忘れられると思った美由紀は、私と竹部さんを引き合わせることにする。

それが、急に美由紀がキャンセルになった合コンだ。

美由紀は、私とだったら竹部さんとのことをあきらめられると思ったらしい。

竹部さんにも常々私のことを話していたから彼にとっては近づきやすい存在だった。

そして、竹部さんもまた美由紀を忘れるために、そして美由紀の存在を近くに感じられる私と付き合うことを選ぶ。

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