気づけばいつも探してた
美由紀の涙が渇き始めた目が私の真意を推し量るようにまっすぐに見つめてくる。

「他に好きな人って……」

そう言いかけた彼女の視線が、恐らく扉の向こうにいるだろう彼の方に向けられた。

なんとなく今美由紀に本当の気持ちを言うのは憚られる。

彼にまだ自分の気持ちを伝えていないのに先に美由紀に言えないってこともあるけれど、それ以上に、美由紀は竹部さんと私のことで心を痛めてる。

正直、想像もしていなかった美由紀からの告白だったけれど、私は自分よりむしろこれからの彼女たちの方が心配だった。

そんな状況の中、自分の浮かれた話なんかできるはずもない。

「美由紀はまずはしっかりと休んで早く元気にならなくちゃ」

気持ちを切り替えるようにそう返した。

「竹部さんは……?」

美由紀はぽつりとそう言うと私にその答えを求めるような瞳を向ける。

やはり竹部さんの状態をまだ知らないんだ。

どう考えたって今美由紀に伝えることはできない。

あんな痛々しい竹部さんの姿を知らせたりなんかしたら、美由紀の傷は深まるばかりだ。

「私もまだ何も知らないんだ」

そんな嘘をつくことも今は間違いじゃないような気がした。

「そう……だよね。さっきの告白の後に美南に聞くなんて間違ってるよね。ごめん。私は間違いだらけの人生だわ」

「間違ってないよ」

咄嗟にそう返す。

「それが間違いかどうかなんて誰にもわからない。相手を思うからこそ本当のことが言えないってことあるもん。私だってそんなこといくらだってある。間違いばかり恐れてたら前になんか進めないもの」

美由紀はうつむき唇をクッと噛むと、そのまま私の首に自分の腕を巻き付けるように抱きしめた。

彼女の髪から甘い香りがしている。

「ありがとう」

私の耳元で小さく呟き続けた。

「私ももう大丈夫。廊下で待ってる翔さんのところに早く戻ってあげて」

「わかった。美由紀にもきちんと自分の気持ち伝えたいからまた近いうちに来るね」

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