気づけばいつも探してた
その声に我に返った私は椅子から立ち上がり翔の前に進み出る。

「美由紀を竹部さんに会わせたいの、今すぐに」

「どうして今なんだ?神田さんは明後日退院だからその後いくらでも会えるじゃないか」

「今じゃなきゃだめなの!」

彼の瞳が私の気持ちを必死に探ろうとしていた。

気持ちが変わってしまわないように……二人がこの恋をあきらめてしまう前に美由紀を竹部さんに会わせたい。

そこに深い理由があろうがなかろうがどうだっていい。二人は結ばれるべきだって、ただそれだけ。

彼の目をしっかりと見据えたまま、自分の気持ちが梃子でも動かないことを伝えようとした。

翔はふぅと息を吐き、困ったような顔をして前髪をくしゃくしゃとする。

「俺は担当医じゃないから本来勝手な許可できない身だけど、今回のことは知らなかったことにする。すぐ戻るんだぞ。兄さんも今は親族以外面会謝絶の状態だから」

「ありがとう」

私はほっとして美由紀の方を振り返り笑顔で頷く。

美由紀も嬉しそうに頷くと、スリッパを履き翔の前まで来て頭を下げた。

翔の入れ知恵で、美由紀は下ろしていた髪を束ね、入院着の上から自分のロングコートを羽織る。

そして、翔が車を運転するときに時々つけていたサングラスを美由紀に貸した。

「まるで変装ね」

必死に美由紀の様子を変えようとしている翔に思わず笑ってしまう。

「そりゃそうだろ。これからダメなことするんだから。俺もこんな勝手許したことがバレて叱られたくないからね」

「そうだね。でも、お陰で美由紀の変装はばっちりだわ」

美由紀はすまなさそうな顔をして苦笑した。

「それじゃ行くか」

翔を先頭に少し距離を置いてついていく。

今日は日曜とあって、幸い勤務医も看護師も普段より少ない。

三人は竹部さんのいる三階に向かった。

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