気づけばいつも探してた
「しかも、その……大切な存在だとか……?」

動けない竹部さんは若干気まずそうに言葉を選ぶ。

「あの、はい。すみません……」

急にそんなことを言われて、どういう顔をすればいいかわからずうつむいた。

「何も気にする必要はないよ。俺たちの罪が翔とのことで少し軽くなったような気さえしているんだ。そんなこともこちらの都合のいい話だけどさ」

「いえ、そんな……でも、本当に最近なんです。自分の気持ちに気づいたのも翔が竹部さんの弟だったってことを知ったのも」

「そうだったんだね。俺も美南から聞いて、まさかって思わず起き上がりそうになってそんな自分に慌てたよ」

竹部さんはそう言って目を細めて笑った。

あ、やっと笑った……。

昨日からずっとふさぎ込んでいた竹部さんの表情にポッとあかりが灯ったようでうれしくなる。

美由紀も竹部さんの笑顔を見つめ、口元を緩めていた。

「翔はまだ近くにいる?」

竹部さんが私に視線を向け穏やかな表情のまま尋ねた。

「部屋の外にいます」

「呼んできてもらえるかな」

私は頷くとすぐに部屋から顔を出し翔の姿を探す。

翔は……

ベンチに座り腕を組んだままうつむいて気持ちよさそうに眠っていた。

その無防備な寝顔に思わずくすっと笑ってしまう。

昨日からきっと竹部さんのことで奔走していて疲れてるんだ。

いやいや、翔の寝顔に見とれてる場合じゃない。

声をかけようとしたら、フッと翔の瞼が開き私の方に顔を向けた。

まだ寝ぼけ眼の彼は「話せた?」と言って前髪をかき上げる。

「うん。あなたのお兄さんがお呼びよ」

眠そうな彼も愛しく感じながらそっと囁く。

「あ、うん」

少し緊張したような面持ちで翔は立ち上がり、私に続いて部屋に入った。
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