気づけばいつも探してた
彼は竹部さんのベット脇に置いてある丸椅子に腰を下ろす。
「翔、色々悪かったな」
「何が?」
「今回のことで随分お前を傷つけただろう。すまなかった」
翔は私にちらっと視線を向けると「傷つく?」と苦笑した。
「俺、美南が言うから仕方なく納得してみせたけど、本当は兄さんのことをまだ許せていない」
「ちょ、翔?!」
突然椅子から立ち上がった翔は、するどい目つきで竹部さんの胸ぐらを掴み、彼の白衣の裾は激しくうねった。
胸を掴まれた竹部さんは動じることもなく冷静な眼差しを彼に向けている。
「俺にとっては、美南はかけがえのない大切な人だ。例えどんな理由があったにせよ彼女を利用するなんて許せない」
翔......。
「兄さん達も苦しんだのかもしれないけど、そんなこと美南には全く関係のない話だ。兄さんたちを簡単に許してしまうような、どうしようもないくらいお人好しな美南だけど、俺はこれまであいつの幸せだけを願ってそばにいた。美南だってこのままでいいのかってずっと兄さんや美由紀さんのことを思って悩んでいたんだ。兄さんたちの身勝手な事情にただ能天気に付き合ってた訳じゃないってことは絶対忘れないでほしい」
「もちろんだ。決して忘れないし、翔は俺達を許す必要もない」
翔は自嘲気味にクッと笑うと目を伏せ続けた。
「その余裕面、正直今すぐにでも一発殴りたってやりたい気分だ。だけど」
翔はふぅーと息を吐き、ようやく竹部さんの胸元から自分の手を離す。
「今俺が兄さんを殴るのはフェアじゃない。兄さんが元の体に戻ったとき、一発殴らせてもらう」
「ああ、承知したよ。お前のためにも早く完治しなくちゃな」
「俺もその日のために必死に治療にあたらせてもらうよ」
竹部さんと翔はまっすぐ見つめ合い、言葉にはならない互いの思いが交錯しているようだった。
二人の間には血の繋がらない兄弟には見えない深い信頼で結ばれているのだろう。
そして、翔がずっと秘めていた思いが痛いほど伝わってくる。
私の盾になってこれまでそばにいてくれたことに今更ながら胸が締め付けられるようだった。
最近はずっと、現実味のない現実にずっと心も体も揺れ続ける振り子のようだったけれど、この二人の姿は私のそんな振り子の動きを止めた。
目の前にある間違いのない現実から、想像以上に穏やかな未来を感じ取れたからかもしれない。
「美南……」
美由紀が私のそばに寄り添い小さな声で続けた。
「私、美南が納得してくれるような生き方をしていくわ。まだまだ乗り越えないといけない壁はたくさんあるけれど、逃げずに前に進んでいく」
「うん。竹部さんがいればきっと乗り越えられるよ」
キラキラと精気の戻った彼女の瞳に私の胸はドキドキ震えていた。
こんなにも満ち足りた気持ちになったのはいつ以来だろう。
愛する人たちが前を向き幸せに包まれている光景は、私にとって何よりの力になっていく。
今までも、きっとこれからもずっと。
「翔、色々悪かったな」
「何が?」
「今回のことで随分お前を傷つけただろう。すまなかった」
翔は私にちらっと視線を向けると「傷つく?」と苦笑した。
「俺、美南が言うから仕方なく納得してみせたけど、本当は兄さんのことをまだ許せていない」
「ちょ、翔?!」
突然椅子から立ち上がった翔は、するどい目つきで竹部さんの胸ぐらを掴み、彼の白衣の裾は激しくうねった。
胸を掴まれた竹部さんは動じることもなく冷静な眼差しを彼に向けている。
「俺にとっては、美南はかけがえのない大切な人だ。例えどんな理由があったにせよ彼女を利用するなんて許せない」
翔......。
「兄さん達も苦しんだのかもしれないけど、そんなこと美南には全く関係のない話だ。兄さんたちを簡単に許してしまうような、どうしようもないくらいお人好しな美南だけど、俺はこれまであいつの幸せだけを願ってそばにいた。美南だってこのままでいいのかってずっと兄さんや美由紀さんのことを思って悩んでいたんだ。兄さんたちの身勝手な事情にただ能天気に付き合ってた訳じゃないってことは絶対忘れないでほしい」
「もちろんだ。決して忘れないし、翔は俺達を許す必要もない」
翔は自嘲気味にクッと笑うと目を伏せ続けた。
「その余裕面、正直今すぐにでも一発殴りたってやりたい気分だ。だけど」
翔はふぅーと息を吐き、ようやく竹部さんの胸元から自分の手を離す。
「今俺が兄さんを殴るのはフェアじゃない。兄さんが元の体に戻ったとき、一発殴らせてもらう」
「ああ、承知したよ。お前のためにも早く完治しなくちゃな」
「俺もその日のために必死に治療にあたらせてもらうよ」
竹部さんと翔はまっすぐ見つめ合い、言葉にはならない互いの思いが交錯しているようだった。
二人の間には血の繋がらない兄弟には見えない深い信頼で結ばれているのだろう。
そして、翔がずっと秘めていた思いが痛いほど伝わってくる。
私の盾になってこれまでそばにいてくれたことに今更ながら胸が締め付けられるようだった。
最近はずっと、現実味のない現実にずっと心も体も揺れ続ける振り子のようだったけれど、この二人の姿は私のそんな振り子の動きを止めた。
目の前にある間違いのない現実から、想像以上に穏やかな未来を感じ取れたからかもしれない。
「美南……」
美由紀が私のそばに寄り添い小さな声で続けた。
「私、美南が納得してくれるような生き方をしていくわ。まだまだ乗り越えないといけない壁はたくさんあるけれど、逃げずに前に進んでいく」
「うん。竹部さんがいればきっと乗り越えられるよ」
キラキラと精気の戻った彼女の瞳に私の胸はドキドキ震えていた。
こんなにも満ち足りた気持ちになったのはいつ以来だろう。
愛する人たちが前を向き幸せに包まれている光景は、私にとって何よりの力になっていく。
今までも、きっとこれからもずっと。