気づけばいつも探してた
「今日は忙しいのにわざわざ来てくれてありがとう」

「こちらこそ。なんだか慌ただしくなっちゃってごめん」

美由紀はおくれ毛をかき上げると、立ち上がった。

この後、どんな予定があるんだろう。

気になるけれど、彼女から言い出さない限りなんとなく聞けない雰囲気がある。

もう新しい彼とかできたのかもしれない。

だってこんなにきれいなんだもの。

世の男性が放っておくはずがない。

「おばさん、今日はありがとうございました。今度ゆっくりお邪魔します!」

キッチンに呼び掛けた美由紀に母が振り返った。

「もう帰っちゃうのね。ほんと近いうちにまたね」

エプロンで手を拭きながらこちらに足早にやってくる。

玄関の前で頭を下げる美由紀に母は朗らかに笑いながら手を振り見送った。

駅まで、美由紀を送る。

日曜の午後だからか駅前の商店街は家族連れで賑わっていた。

威勢のいい八百屋のおじさんが私たちに「かわいこちゃん!このリンゴ甘いよー。まけとくよ!」と声をかけてくる。

私は笑顔でそんなおじさんの言葉を流したけれど、意外にも美由紀が八百屋の前で足を止めた。

「じゃ、三つ下さい」

「はい、三つねぇ。お姉さん美人だから、本当は三つで五百円だけど三百円にまけとくよ!」

やっぱり美人は得だなぁ、と思いながら彼女の横顔を見ていた。

買い終わりまた駅へと歩みを進める。

「八百屋さんに気を使ったの?」

「うううん。リンゴ、欲しいなって思ってたから」

そうなんだ。

今から約束があるのにリンゴなんて荷物にならないのかな。
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