気づけばいつも探してた
映画の途中で呼び出しがかかるかもしれないと思っていたけれど、最後まで彼のスマホは鳴らなかった。

映画が終わり、会場が一気に明るくなる。

はらはらドキドキの展開で私は結構面白かったけど、竹部さんはどうだったのかな。

ちらっと彼を盗み見ると、無表情のままじっとスクリーンを見つめていた。

面白くなかったのかな。私ごとき人間が面白いって思うくらいのレベルじゃ彼には物足りないのかもしれない。

いちいち感想を聞くのもどうかと感じ、黙ったまま席から立ち上がる。

まだ座っている彼に小さく声をかける。

「行きましょうか?」

「あ、ごめん」

彼は一瞬我に返ったような表情で私を見上げすぐに自分のバッグを小脇に抱えて立ち上がった。

いつにない調子だったので心配になる。

「お疲れじゃないですか?」

会場内の階段を上る足取りが重たそうに見える。

「いや、大丈夫だよ。情けない話、ちょっと疲れがたまってるだけ」

竹部さんは後ろから続く私の方に顔を向けると、いつものように穏やかに微笑む。

そして、私の手を取り、しっかりと握りしめた。

手をつなぐのは二回目だ。

まだ彼の手に慣れなくて、少しひんやりとした繊細な手に違和感を感じる。

でも、この手で何人もの患者の命を救ってきたんだろうな。

繋いでもらうだけでもありがたいことだわ。

「疲れがたまってるって、今お忙しいんですか?っていつも忙しいでしょうけど」

「うん。先週はずっと難しい手術が続いていて気が休まらなかったってのもあるし、珍しく熱が出て一日だけ倒れてたんだ」

「熱?大丈夫なんですか?」

「ああ、我ながら一日で抑え込んだよ。医者が病気だなんてかっこ悪い話だよね」

「いえ、お医者さまも人間ですから」

そう言った私の方を少し驚いた顔で見つめた竹部さんはうつ向いてクスっと笑った。
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