気づけばいつも探してた
「君は本当に純真な人だ。俺みたいに薄汚れた屑野郎にはもったいないな」

「屑だなんて……」

もったいないのは私の方なのに。

どうしてそんなこと言うんだろう。

いつか祖母が言ってたっけ。立派な人ほど謙遜するんだよって。

きっと竹部さんは私が想像する以上に立派な人なんだわ。

屑野郎だなんて。

そんなはずもないのに。

疲れている竹部さんを歩かせるのも申し訳なくて、予定通りの映画館近くのハワイアンカフェに入る。

彼はブラック。

おやつ時でお腹が空いてしまった私はパンケーキとアイスティを頼む。

こんなものばっかり食べてるから痩せないんだわと思いつつ、食べたいものはしょうがないと腹をくくって目の前に置かれた振動でゆらゆら揺れるパンケーキを見つめた。

「俺に構わずしっかり食べて」

パンケーキを前に白くぷっくりしている自分の指がまるでパンケーキそのものみたいに見えて食べることを躊躇していた私に竹部さんは笑いながらそう言った。

「あ、はい。あの、竹部さんも一口いかがですか?」

「いや、俺はほんとにいいんだ。ブラックで頭すっきりさせたいから」

「じゃ、一人で申し訳ありませんが頂きます」

この新しくできたハワイアンカフェの売りはこのパンケーキ。

卵白が大量に入ったケーキは口の中でその存在を確かめる前に溶けていく。

「おいし」

思わず小さく声が漏れた。

「美南ちゃんはいつもおいしそうに食べるよね。食べるの好き?」

「好きです」

「いいね」

彼はカップを傾けるといたずらっぽく微笑んだ。

大人の余裕だ。

こんなにすごい人なのに、本当に……本当に私のこと好きなんだろうか。

普通なら舞い上がってしまうような状況なのに、妙に冷静な彼の言動にやはり戸惑う。

それは外科医っていう特殊な仕事をしてる人だから?
< 32 / 186 >

この作品をシェア

pagetop