気づけばいつも探してた
その時、彼のジーンズのポケットに入れているスマホが鳴っているのに気づいた。

竹部さんは直ぐにスマホを耳に当てる。

「はい、竹部です。えー……今出先なんで、車で飛ばせば三十分くらいで着くかな。わかりました、すぐ向かいます」

呼び出しだ。

最近難しい手術が続いてたって言ってたもんね。

でも、映画も一緒に見れて、カフェでお茶もできたら十分一緒にいれた方だわ。

「毎度のことでごめん」

「いえ、大丈夫です」

私は笑顔を作ってパンケーキを指さし言った。

「竹部さんに見られてたらなかなか食べれなかったけど、今からゆっくり堪能します」

彼は泣きそうな目をして、私の手に自分の手を重ねた。

「年末、休みが取れたら旅行にでも行こう」

旅行?!

こんなに忙しいのに旅行だなんて行けるのかしら。

私は期待せずに笑顔で頷いた。

彼は腕時計に目をやると、椅子にかけていた黒の革ジャンを掴み「じゃ」と言って勘定を済ませ店を出ていった。

ふぅ。

こうなることは最初からわかってたからいいんだけど。

まだ半分残っていたパンケーキはすっかり萎んで元気をなくしていた。

出来立てがおいしいんだよね。時間が経てば経つほど萎んで最初の時の感激は薄れていく。

小さくフォークで切り取ったケーキを口に入れて、アイスティで流し込んだ。

そういえば、翔、元気してるかな。

この間会ったのはもう三週間前くらいになるか。

丁度、竹部さんと四回目のデートで彼に初めて抱かれた後だったっけ。
< 33 / 186 >

この作品をシェア

pagetop