気づけばいつも探してた
その後の二時間は、何事もなかったように過ぎて行く。

二時間なんてあっという間で、結局やりたかった仕事は午後に後回し。

立花さんの指導っていうやり方に疑問を残したまま、私の胸の奥はモヤモヤしたままだった。

そんな気持ちを引きずったまま、時間が来たので再び会場に戻る。

会場の扉が開き、たくさんの来賓者たちが受付の前を通り過ぎ帰っていく。

私たちは「ありがとうございました」と米つきバッタみたいに見送った。

顔を上げると、竹部さんがにっこり笑い手を振っているのに気が付く。

わわ。

知り合いってバレるじゃない!しかもあんなイケメン。

他の女性陣たちに見られたら後がややこしいんだって。

って、付き合ってるのにややこしいっていうのも変な話だけど。

「ちょっと、矢田さんの知り合い?」

私の横に並んで立っていた人事部の並木さんが私にだけ聞こえるような声で尋ねてきた。

ほらね。

「ええ、ちょっとした知り合いで」

「へー、あなたも隅に置けないわね」

そう言いニヤッと笑った並木さんは人事部女性スタッフの中でも大ベテラン。今年35歳になり主任に昇格したって言ってたっけ。

でも、立花さんと違って姉御肌でとても優しく皆に慕われていた。

こんな先輩に指導してもらったら、萌ももっと自分の実力発揮できるのに。

「ありがとうございました」

そう言いながら頭をゆっくり上げる。


ん?


ん~??

相変わらずエレベーターホールへ向かって流れていく人の波の中に一瞬見たことあるような横顔。

思わず体を斜めにしてその人の方を探す。

その人の後ろ姿はすぐにエレベーターの中に飲まれていった。

いや、まさかね。

他人のそら似。

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