気づけばいつも探してた
萌の京都にある実家は老舗の和菓子屋で、彼女の父の跡は5歳上の兄が継ぐらしいが、中学生のころから店の手伝いを余儀なくされて、そんな生活からとにかく脱却を図りたかったらしい。

「老舗の和菓子屋ということもあって、躾も他の家よりも随分厳しかったと思います。そういうのがもう息苦しくなっちゃって」

「だから、萌は品があるんだね。どこかのお嬢さんだろうなぁとは感じてたんだ」

「そんなことはないです」

萌はうつ向き、白い頬がポッとピンクに染まる。

「厳しいと言えば、立花さん、結構厳しいんじゃない?せっかく実家の厳しい環境から抜け出したのに」

そうそう、本題はここからだ。

『立花さん』という言葉に萌の小さな瞳が一瞬震える。

そのタイミングで料理を運んできたネパール人の店員が、二種のカレーとサラダ、そして熱々のナンを「おまたせしました」と片言日本語で言いながら私たちの前に置いた。

「おいしそう」

一瞬震えた萌の瞳がテーブルの上の料理にくぎ付けになる。

その表情に少し安心して、「さ、とりあえず食べよう」と言った。

ふかふかのナンはバターがしっかりと練り込んでいてとてもカレーに合う。

日替わりカレーはチキンのカレーとほうれん草のカレー。

いくらでも食べられちゃうわ、と思いながら、時折萌に声をかけながらたっぷりカレーのついたナンを頬張った。

「おいしいです!」

萌も頬を膨らませて、何度も頷く。

元気になるにはおいしいものを食べて笑うのが一番だ。

少しは元気になってくれたらいいな。

おいしそうに食べている萌を見つめながら思った。
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