気づけばいつも探してた
店から本社ビルへの帰り道、どこからか甘い香りが鼻をかすめる。
ちょっと懐かしくて切なくて、この時期にいつも香る匂い。
「この香りって何だったっけ?」
目をつむってくんくんと上を向くと萌が答えた。
「金木犀です。いい香りですよね。でも、今年は気温が高かったからいつもより少し遅いかも」
「さすがお花好きとあって詳しいわね。私なんかチューリップと桜くらいしか知らないわ」
「実はうちの母が華道の師範だったんで、実家でいる時から私の周りには色んな花が日常的にあって」
「へー。お父さんは老舗和菓子屋の菓子職人さんで、お母さんは華道の師範!もう生粋の生粋だわね」
目を大きくして萌の横顔を見つめた。
「店にいつも母が花を生けてました。その生け花をわざわざ見に来る人もいるくらい」
「素敵ね。萌は華道には進まなかったの?」
「家飛び出しちゃってましたから、今更です」
萌は困ったような顔で苦笑した。
「そっかぁ、なんだかもったいないね」
すごく恵まれた家に生まれたはずなのにその家を離れて、今立花さんの下で働いてる萌がとても不憫に思える。
「やっぱり萌はお花習いにいくべきだと思うんだけどなぁ」
しつこいかなと思いつつももう一度投げかけてみた。
「そうですね。もう少し仕事が落ち着いたら……」
「うん、なんでも思い切って始めたら前に進むものよ」
忙しいからってできないできないって言ってたらいつまでたってもできないままなんだよね。
そうは言っても実際はなかなか難しいわけで。
人生って、なかなか思い通りにいかないものなのかもしれない。
エレベーターホールで待っている間、萌のまだ幼さの残る横顔につぶやく。
「何かあったらいつでも相談してね」
少しびっくりしたような顔を私に向けると、萌はにっこり微笑み頷いた。
ちょっと懐かしくて切なくて、この時期にいつも香る匂い。
「この香りって何だったっけ?」
目をつむってくんくんと上を向くと萌が答えた。
「金木犀です。いい香りですよね。でも、今年は気温が高かったからいつもより少し遅いかも」
「さすがお花好きとあって詳しいわね。私なんかチューリップと桜くらいしか知らないわ」
「実はうちの母が華道の師範だったんで、実家でいる時から私の周りには色んな花が日常的にあって」
「へー。お父さんは老舗和菓子屋の菓子職人さんで、お母さんは華道の師範!もう生粋の生粋だわね」
目を大きくして萌の横顔を見つめた。
「店にいつも母が花を生けてました。その生け花をわざわざ見に来る人もいるくらい」
「素敵ね。萌は華道には進まなかったの?」
「家飛び出しちゃってましたから、今更です」
萌は困ったような顔で苦笑した。
「そっかぁ、なんだかもったいないね」
すごく恵まれた家に生まれたはずなのにその家を離れて、今立花さんの下で働いてる萌がとても不憫に思える。
「やっぱり萌はお花習いにいくべきだと思うんだけどなぁ」
しつこいかなと思いつつももう一度投げかけてみた。
「そうですね。もう少し仕事が落ち着いたら……」
「うん、なんでも思い切って始めたら前に進むものよ」
忙しいからってできないできないって言ってたらいつまでたってもできないままなんだよね。
そうは言っても実際はなかなか難しいわけで。
人生って、なかなか思い通りにいかないものなのかもしれない。
エレベーターホールで待っている間、萌のまだ幼さの残る横顔につぶやく。
「何かあったらいつでも相談してね」
少しびっくりしたような顔を私に向けると、萌はにっこり微笑み頷いた。