気づけばいつも探してた
それにしても翔と会うのは随分久しぶりだ。

言いたくてたまってる話もあるし、今日はやっぱり立花さんの愚痴を聞いてもらいたい。

19時半まであと二時間ほど、私はT駅からほど近いファッションビルで洋服を見たり、本屋で雑誌を立ち読みしたりして過ごした。

そんな二時間なんてあっという間。

気が付けばもう19時半ぎりぎりだったから、慌ててSビルに向かう。

ビルの10階は5店舗の食事処が入っていたけれど、店構えから推測するに皆それなりに高級店のようだ。

和食、フランス料理、炉端焼き、中華……そして翔が予約を入れてくれたイタリアンのお店がエレベーターから一番遠い場所に位置していた。

店員さんに尋ねると、「翔様ですね?」と確認される。

店の予約名はもちろん翔という名前で予約されているわけで。

「お待ちしておりました、どうぞこちらへ」

黒いスカートに清潔感のある白いシャツ、そしてカーキのエプロンをつけた店員はにっこり微笑み、私を奥の個室に案内した。

なぜだかいつも予約を入れてくれる時は個室。

その方がゆっくり話せるからいいんだけど、それ以上に贅沢感もあり翔のくせに気が利くなぁといつも感心していた。

部屋にはまだ翔は来ていない。

忙しそうだったもんな。

こういうことはよくあるから、特に気にはならなかった。

私も待たせたこといっぱいあるしね。
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