気づけばいつも探してた
まだ少し残っていたお酒を萌のグラスに注ぐ。

「ありがとうございます」

「ごめん、あまり残ってなかったね」

注ぎ切ったお酒は萌のグラスの三分の一ほどしか入らなかった。

「いえ、もう十分飲みましたから」

「うん」

気まずいような気持ちで微かに笑ってみる。

萌も私に気を使ってか口を締めたまま笑い返した。

その直後、萌の口が開き、思いもしなかった言葉が飛び出す。

「最近ずっと考えてたんですけど……私仕事を辞めようと思ってます」

「え?」

口に含んだお茶をごくりと静かに飲み込む。

「ずっとこういう事務仕事、自分には向いてないなって思っていて。もう入ってから半年以上も経つのに矢田さんを始め、皆さんにフォローしてもらってばかりで申し訳なくて」

どうして?萌は一生懸命やってたよ。

ただ立花さんがいるからいつまでたっても自分の仕事が思うように運ばなかっただけなのに。

でも、決意の固まっている凛とした彼女の瞳を見たら、そんなこと言えなかった。

「辞めてどうするの?京都に帰るの?」

「いえ、それはできません。親の反対押しきって家を出ていますから、何も持たずに帰るわけにはいかないので」

やっぱり萌は一本通ってる。見た目のやわらかさと違って。

「実は今、少し考えてることがあって。それがきちんと準備できた時、また矢田さんにはお話し聞いてもらっていいですか?」

「もちろんよ」

その瞬間、萌はようやく安心したかのように、目をくるっと私に向け頬がゆるみ、まるでさっきの寒椿が生き返ったみたいに見えた。

ちょっとした変化で人も生きるのかもしれない。

なんてえらそうなこと言えた立ち場じゃないんだけど。
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