気づけばいつも探してた
部屋で食事だなんてセレブがするものだと思ってたから、まさか自分がそんな経験ができるだなんて思いもしなかった。

これも祖母がいてくれたお陰かもね。

横になっている祖母に小さく「ありがとう」と言ったら「なんだい?」と不思議そうな顔をされ笑われた。

そして、ゆっくりと体を起こした祖母が言った。

「みーちゃん、すまないけど、温かいお茶を少し入れてくれるかい?」

「え、そうだね」

そう言われて、お昼からほとんど水分を摂っていなかったことに気づく。

ホテルに備えつけの湯沸かし器で湯を沸かし、ティーパックのお茶を入れた。

ティーパックのお茶だけど、香ばしい香りが部屋に広がる。

ベットのサイドテーブルに湯呑を置くと、祖母はすぐに手に取り嬉しそうにお茶をすすった。

「あの人いい人だねぇ」

湯呑を両手で抱えるように持っている祖母がしみじみと言い私の方に顔を向ける。

「あの人って翔のこと?」

「ああ、翔さん。かっこいいし、優しいし、頭もいいし。本当にいい男だよ」

祖母の口から『いい男』なんてフレーズ聞くなんて初めてで、なんだかくすぐったい気持ちになりながら笑い返す。

「翔さんと結婚すればいいのに」

「何言ってるのよ、急に。翔は大事な男友達だわ」

「そうかい?男友達だったらいつかは別れなくちゃならないよ」

「どうして?」

「だって、みーちゃんが結婚したら、友達のままなんていられないだろう?みーちゃんの旦那様も嫌だろうし、翔さんだって賢い人だからきっとお前から離れていくよ」

「ふぅん、そんなもんなのかな。友達だったら男だって女だって関係ないんじゃない?」

祖母はくすっと笑うともう一度お茶をすすった。

「まぁ、今はまだいいかねぇ。みーちゃんがそう思うなら」

なんだか意味深なことを言った後、祖母は湯呑をサイドテーブルに置き、「少し寝るよ」と言ってまた横になった。



< 89 / 186 >

この作品をシェア

pagetop