気づけばいつも探してた
救急車が数分で到着し、ホテルは一瞬物々しい雰囲気に包まれる。

震えが止まらず、救急隊員の問いかけにロクに答えられない私の横で翔が冷静に的確に祖母の様子を説明してくれた。

病院はホテルのすぐ裏にあり、ほとんど乗ってる時間もないまま到着する。

担架に乗せられた祖母はすぐに処置室に運ばれ、翔も付き添いで一緒に入っていった。

私は処置室の扉が閉まった途端、へなへなと廊下のベンチに座りこんだ。

きっと私のせいだ。私があの時間眠りこけてしまわなければすぐに異変に気付けたのに。

どうしよう。祖母に何かあったら……。

震える体をギュッと両腕で抱え、こぼれ落ちる涙をそのままに体を小さく丸める。

私の膝の上にポトンと落ちた涙が点になってにじんだ。

「美南」

丸まった背中に温かい大きな手のひらの感触を感じる。

「美南」

もう一度同じ声が私を呼ぶ。

ゆっくりと顔を上げると、処置室から出てきた翔が優しく微笑んでいた。

翔は私の背中に手を当てたまま、隣に腰を下ろす。

「おばあちゃんは?」

涙でいっぱいになった瞳で彼の目を見つめ、翔の言葉を不安でいっぱいになった胸を押さえ待った。心臓がものすごい速さで脈打っているのが手から伝わってくる。

彼は目を伏せると、すうーっと静かに息を吐き何も言わず、そのまま覆いかぶさるように私の体を包んだ。

え?

突然のことに、自分の思考回路がついていかない。

だけど、翔の体のぬくもりと鼓動を感じていたら不思議と自分の心が落ち着いていく。

嫌だとか、何やってるの?なんて、普段なら言ってしまいそうな状況だというのに逆に抱きしめられていることが今はありがたいとさえ思っていた。

翔って、こんなに大きくてあったかくて、そして強いんだ。

それは初めて知る翔だった。

「おばあちゃん、大丈夫だ」

私の耳元で翔がささやく。

「本当?」

「ああ。やはり水分不足で少し脱水症状になっていたけど点滴すれば問題ない。すぐ回復するよ」

彼の右手がそっと私の後頭部を撫でた。

脱水症状だったんだ。

喉が渇いたって言ってたのに、少しの緑茶しか飲ませてあげてなかった。

母には水分はしっかり摂らせるように言われていたのに。

でも、点滴で回復するのなら本当によかった。

翔からの言葉にようやく安心すると同時に一気に今この抱きしめられているという状況に我に返る。

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