気づけばいつも探してた
自分の中に膨らんでいく緊張と恥ずかしさで、次第に体が硬直していく。

どうしよう。

翔は、友達だけど、その前に男性なんだ。

そんな当たり前のことを今まで意識せずにきていた。

いや、むしろ意識しちゃだめだと思ってきていたのに。

翔は今どんな気持ちなの?

どうして私を抱きしめたりするの?

翔の胸から伝わってくる彼の鼓動もまた私と同じくらいの速さで激しく打っている。

その時、すっと彼の体が離れた。

私の気持ちがそのまま伝わってしまったかのようなタイミングで。

「ごめん」

翔は目を合わさずベンチから立ち上がった。

そして、処置室の扉に顔を向けたまま言った。

「あまりにもお前が震えてるから、寒いのかと思って抱きしめた」

嘘だ。

翔がくだらない嘘をつくそういう時は、いつも私の目をみない。

彼の後頭部を見上げる。

「ありがとう」

抱きしめたのがどういう意味があったのかなんてどうでもいい。

きっと震える私をほおっておけなかった。

翔の優しさだってことは紛れもない事実だから。

余計なことは考えないでいよう。

今は祖母の回復を祈るだけ。きっと翔も同じなはず。

「翔!」

廊下の向こうでこちらに向かって声がした。

翔と私が同時にその声の方に振り返ると、白衣を着たおそらくこの病院の勤務医らしき男性が笑顔で手を挙げてこちらに近づいてくる。

「翔だろう?久しぶり、元気にしてたか?」

その勤務医が翔の前まで来て嬉しそうに言った。

この医者と翔が知り合いなの?医者に知り合いがいるなんて、ますます謎めくんですけど。
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