気づけばいつも探してた
「紘一か?いつ以来だろう?」

翔もまたその紘一と呼んだ彼に満面の笑みを向けその肩をポンポンと叩いた。

「医学部以来じゃないか?俺は関西勤務になってお前は東京に残ったからな。俺はここで内科医やってるけど今どこに勤めてる?」

「俺は……」

ちらっと私に視線を向けた翔はすぐにまた紘一さんに視線を戻し答える。

「俺は東京でがんばってるよ」

「そうか、お前は俺らの同期の中でもトップだったからな。きっと東京でもその名をとどろかせてるんじゃないか?」

紘一さんはいたずらっぽく笑い翔の腕を小突いた。

さっきからその二人の会話についていけなくて頭の中が混乱している。

何?

翔が医学部?しかもトップクラスで東京で勤務してる??

「おばあさんが今脱水症状で点滴中なんだって?さっき処置室から出てきた看護師に聞いたんだけど」

「ああ」

「お前の?」

「いや、違う」

「じゃ、そちらのかわいこちゃん?」

え?!

興味深々の光を放った紘一さんの視線が私に向けられた。

「初めまして。翔の同級生の真鍋紘一(まなべこういち)です。翔の彼女さんですか?」

「違うって」

私が答えに困っていると翔が苦笑しながら紘一さんに言った。

違うって……って本当に違うんだけど、なんだか胸の奥がチクリと傷む。

「俺の友達。彼女は矢田美南さん。美南のおばあさんにどうしても姫路城見せたくて東京から今観光に来てるんだ」

「友達、ねぇ?」

紘一さんはニヤッと翔に笑うけれど、祖母が点滴中ということもあってかすぐに真面目な顔に戻って言った。

「おばあさんの容態は今安定しているらしいよ。あと少しで点滴終わるけど、今晩は病院で様子見た方がいいな。俺から上に話しとくよ」

「すまないな、助かるよ」

「いや、でもこんなところでまさか翔と会うなんてな。嬉しかったよ。またこちらに来た時はゆっくり話しようぜ」

翔は微笑み紘一さんに頷く。

紘一さんがふいに私に視線を向けたので慌てて「ありがとうございます。祖母をよろしくお願いします」と頭を下げた。

すると、紘一さんが目配せしながら私に顔を近づけると小さな声で言った。

「翔は間違いなくいい奴だって、俺が保証するよ」
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