イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「剣ちゃんって、かわいいね」

「おまっ……あとで覚えてろよ」


剣ちゃんはガタガタと震えながら、幽霊が画面に現れるたびに押し殺したような悲鳴をあげている。

いつも強くて、かっこいいのに。

今日の剣ちゃんは、やっぱりかわいい。

好きな人の新たな一面を知った私は、映画になんて全然集中できなくて。

後半はずっと、剣ちゃんだけを眺めていた。



映画館を出たあと、私たちはファミリーレストランにやってきていた。


「……食欲が出ねぇ」


疲れ切った顔で額を押さえている剣ちゃんに、私は苦笑いする。


「剣ちゃんにも、怖いものってあったんだね」

「拳でなんとかならない相手は苦手なんだよ」


もはや隠しきれないと悟ったのか、諦めたように剣ちゃんは認める。

そんな剣ちゃんの手を握って、私は笑いかける。


「じゃあ、幽霊が出たときは私が守るからね」

「女に守られるとか、勘弁してくれ。情けなくて死にたくなんだろ」

「好きな人を助けるのに、男も女も関係ないよ」

「そんなこと、よく恥ずかしげもなく言えるな」

赤面した剣ちゃんは頬づえをついて、そっぽを向く。

「剣ちゃん、お腹が空かないなら半分こしよう?」


私は手を挙げて店員さんを呼ぶと、フライドポテトにハンバーグ、ドリアを頼んだ。

少しして料理が届いた。

私たちはスプーンで一緒にドリアをつつく。


「お行儀が悪いけど、ふたりで食べるとおいしいね」

「あぁ、お前んちの食事は毎日フレンチやらイタリアンやらのフルコースだからな。マナーはいいのかよ?」

「いいんだよ、外に出たときくらい」

「じゃあ、口についたソースはそのままでいいんだな」


剣ちゃんはニヤッと笑って、自分の口を指さす。
やだ、恥ずかしいっ。

私は慌てて、ペーパーナプキンでふいた。


「全然、とれてねぇじゃねぇか」

剣ちゃんは手を伸ばすと、指で私の口もとをぬぐう。

「子どもかよ」

「きょ、今日はたまたま!」

「はいはい、たまたまね」


剣ちゃんは興味なさげに、フォークでフライドポテトを食べた。


「もう、適当に流して……絶対に信じてないでしょ」

「見た目はお嬢様でも中身は抜けてっからな、お前」


くくっと笑っている剣ちゃんに、最初はムッとしていた私もつられて吹きだしてしまう。


「剣ちゃんといるとね、息抜きになる」


本当は苦手なパーティーでも、剣ちゃんがいるだけでがんばろうって思えるしね。


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