イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「いや、試着しなくていいのか?」

「でも、私これがいい」

「は? なんでだよ」

「剣ちゃんが選んでくれたワンピースだもん。サイズがちょっとくらい違ったって、これにするよ」


もう決めた、これにする。

私はさっさとレジに向かうと、剣ちゃんが横からすっとお金を払ってしまう。


「ええっ、いいよ! これは自分で……」

「お前が俺の選んだものでそんなに喜んでくれんなら、やっぱ、そこは俺がプレゼントしたいっつうーか」


しぼんでいく語尾と赤くなる頬。

剣ちゃんが照れると、私にも伝染するから困る。


「ほらよ」


剣ちゃんから差し出された洋服の袋を私は両手でそっと受け取った。


「でも、そんな安物でよかったのか?」


ショップの出口に向かって歩きながら、剣ちゃんが尋ねてくる。


「うん! 値段なんて関係ないよ。このワンピースを着た私は、豪華なドレスを着た私よりもずっとずっと素敵になれるって自信があるんだ」

「ん? どういう意味だ?」

「この服を着るたび、私は今感じてる幸せな気持ちを思い出すの。女の子は心から幸せなとき、すっごく輝くんだって、萌ちゃんが言ってたんだ。だから、このワンピースがいい」


そう言ってワンピースが入った袋を大切に抱えると、剣ちゃんは片手で口もとを隠して、顔をそむけた。

今気づいたんだけど、これって剣ちゃんが照れたときにする癖なのかも。

こうやって少しずつ、剣ちゃんのことを知っていくたびに、好きが大好きに、大好きが愛しいになる。

誰かの存在がこんなにも自分の心を満たしてくれるなんて、知らなかったよ。


「なあ、次はどこに……」


そう剣ちゃんが言いかけたとき、パアンッと銃声が響いてどこからか悲鳴があがる。


「なに!?」


びくっと肩が跳ねて、ただ事じゃない雰囲気にドクドクと動悸がした。


「今度はなんだよ? ちっ、ひとまず隠れんぞ」


剣ちゃんは私の手をつかんで走り、近くの更衣室に身を潜める。

しばらくお客さんの悲鳴がこだましていたが、やがて静かになって犯人たちと思わしき声が複数聞こえてきた。


「さっきまでこの店にいたって報告を受けたってのに、どこにもいねぇじゃねぇか」

「逃げたんじゃないのか? まったく、いきなり発砲するなよ」

「仕方ないだろ、人が多くて面倒だったんだから。このほうが森泉の娘を探しやすい」


狙いは私だったんだ。

大勢の人がいる場所で、なんでこんなことができるんだろう……。

自分のせいで大勢の人を巻き込んだという罪悪感に、私は剣ちゃんのシャツをぎゅっと握る。

そんな私の不安に気づいたのかもしれない。

剣ちゃんは狭い更衣室の中でグイッと私を抱き寄せた。


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