イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「そんな顔すんな。お前のせいじゃねぇ」

「でも……」

「でも、じゃねぇ」


剣ちゃんは私の頬を両手で包んで上向かせると、深く口づけてくる。

吐息ごと奪うようなキスに頭の奥がしびれて、なにも考えられなくなった。

切ない吐息とともに温もりが離れると、剣ちゃんは私の濡れた唇を親指でぬぐう。


「なんでもかんでも、ひとりでしょい込むな。なにもかも、あいつらが悪い。お前はむしろ被害者だろ」

「うん、ありがとう……剣ちゃん」

「よし、じゃあここから脱出すんぞ」


剣ちゃんは私の手をしっかり握って、更衣室のカーテンを少しだけ開く。


「あいつら、違う場所に移ったみてぇだな。ここから出て、非常階段まで行くぞ」


こんなときでも、剣ちゃんは冷静だった。

音を立てないように腰を低くして、ショップを出た私たちは非常階段の前までやってくる。

よかった、ここまで見つからないで来られた。

ほっとして気がゆるんだのがいけなかった。

先ほど開けた重い非常階段の扉を押さえるのを忘れて、背中越しにバタンッと大きな音が鳴ってしまう。


「向こうに誰かいるぞ!」


犯人に気づかれてしまった私たちは、勢いよく階段を駆け下りる。


「剣ちゃん、ごめんっ」

「いいから足を動かせ!」


でも、剣ちゃんの速さについていけず、スピードはどんどん落ちていく。

私たちがもともといたのは8階で、今は5階。

このままじゃ、追いつかれちゃうっ。

それは剣ちゃんにもわかっていたのだろう。


「愛菜、先に下に降りてろ」

「え……」

それって、まさか――。

「剣ちゃんだけ残って、足止めしようとしてる?」

「おう、建物から出られても安全とは言い切れねぇだろ。だったら、ここでまとめて叩いとく」

「だめだよっ、置いてけない!」

私は剣ちゃんの手を強く握る。

「私、剣ちゃんの手を握るたびにね、決めてることがあるの」

「こんなときに、なんの話して……」

「絶対にこの手を離さないって、ふたり一緒に生きるんだって、決めてるの!」


強く言い切れば、剣ちゃんは驚いた顔をする。

それから徐々に目を細めて、困ったように笑った。


「テコでも動かなそうだな、お前」

「動かない、剣ちゃんのそばにいる!」

「わかった、わかった。俺も腹くくるから、危なくないようにちゃんと下がってろ」


剣ちゃんが私の前に出たタイミングで、ナイフや銃を手にした犯人たちが襲いかかってくる。

剣ちゃんは階段を駆け上がると、男のナイフを手刀で落とすして背負い投げを決めた。


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