イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「俺から簡単に逃げられると思うなよ」


そんなやりとりも楽しくて、私はついに吹きだしてしまった。


「なんか、こうして剣ちゃんと一緒に普通に恋人として過ごせることが幸せ」


私は抵抗をやめて、剣ちゃんの胸に寄りかかる。

体重をかけても剣ちゃんは力持ちだからきっと大丈夫……なはず。

すると剣ちゃんは私のお腹に両腕を回して、抱きしめ直した。


「俺もだ。ただ、お前が隣にいてくれれば、それ以上のことはなにも望まねぇ」


ここ最近、狙われてばかりだったからかもしれない。

些細な幸福にも気づけるようになった気がする。


「なあ、それ着て見せてくれよ。結局、俺が選んだものがいいって言って、試着もしなかっただろ」


剣ちゃんは私の膝の上にある洋服の袋を見て、期待に満ちた目をする。


「剣ちゃんのお願いなら、全力で叶えるよ!」


私は服を持って一旦隣の自室に戻ると、剣ちゃんのプレゼントしてくれたワンピースに身を包む。

幸いなことに、サイズもピッタリだ。

剣ちゃん、気に入ってくれるといいな。

私はドキドキしながら、剣ちゃんの部屋の扉を少し緊張気味にノックする。

――コンコンッ。


「入るね?」

「おう」


中から返事があると、私は中に入る。


「へへ、どうかな?」


改まって見てもらうのは照れくさい。

だけど、私は剣ちゃんの前でくるりと回る。

ふわりとスカートの裾が揺れると、剣ちゃんが食い入るように私を凝視していた。


「剣ちゃん?」


反応がないので、ベッドに座っている剣ちゃんに近づくと力強い腕が腰に回って引き寄せられる。


「似合ってる。すげぇかわいい。これ、校外学習に着てくのやめとけ」

「ええっ、なんで!」

「俺だけが知ってればいいっつーか。他の男に見られんの……嫌なんだよ」


うつむき加減に視線をそらす剣ちゃんの耳は、ほんのり赤い。

えっと、これって怒ってる?

知らず知らずのうちに、地雷を踏んでしまったのだろうか。


「じゃ、じゃあ……剣ちゃんとお出かけするときにだけ、この服は着るね?」


私は腰をかがめて剣ちゃんの首に抱き着くと、背中をぽんぽんと優しく叩く。

すると、剣ちゃんはなにかを怪しむような目で見上げてきた。


「んだよ、これは」

「えっと……ご機嫌を直してもらおうかと」

「あのな、別に俺は怒ってねぇぞ?」


え、そうだったんだ。

剣ちゃん、なんかムスッとした顔してたから勘違いしちゃった。


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