イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「ありがとう、萌ちゃん」

「うむ! そんでもって、これを着て給仕をすること。きっとケンケンが喜ぶよ」

「うん?」


なんで剣ちゃんが喜ぶのかは、わからないけど……。

とにかく帰ったら、これに着替えて剣ちゃんに給仕をすればいいってことかな?


「おい、愛菜になにさせる気だよ」


話を聞いていた剣ちゃんが、萌ちゃんに疑いの眼差しを向けていた。

ちょっと、お手洗いに行ってこようかな。

話し込んでいたら昼休みも終わりに近づいていて、私はみんなにひと声かけると席を立つ。

教室を出て廊下を歩いていると、また雅くんに会った。


「この間はごめんね」


雅くんは私の前で足を止めると頭を下げてくる。


「ううん、でも……どうしてあんなことを?」


あんなこと。

それが指しているのは、雅くんに襲われかけたことだ。


「きみが好きだかから、かな」


雅くんは少しも迷わずにそう言う。

けれど、私は本気の好きを剣ちゃんからもらったからわかるんだ。


「雅くんは、私を好きじゃないよ」

「どうしてそう思うの?」

「そう聞かれちゃうと困るんだけど、好きで好きでたまらないって気持ちが伝わってこないの。なんだか……口だけが勝手に告白してるみたい」


そう、例えるなら――。


「人形みたいってこと?」


私が言おうとしたことを、まさかの本人が口にした。


「雅くんのこと……傷つけてたらごめんね。だけど、どうしても心から出た言葉には思えないんだ」

「はは、すごいね。きみは見かけによらず、鋭くて聡明だよ。さすが森泉先生の娘ってところかな」

「え?」


自嘲的な笑みを浮かべる雅くんは、廊下の窓に視線を移して、外の光にまぶしそうに目を細める。


「俺は父から『俺の敷いたレールの上を歩け』って言われて育ってね。それは楽だったけど、正直つまらなかったんだ。だってさ、刺激がないから」

「刺激?」

「そう、刺激。平和で順風満帆な日々って、なにも考えなくていいから、飽きがくるんだよ。俺はもっと、そういうなんの変哲もない日常をぶっ壊したいんだよね」

「えっ……」


雅くんの言葉に耳を疑う。

平然と、雅くんはなにを言ってるの? 

よく理解できない。

困惑して返事ができないでいると、雅くんはスッと私の髪をひと房すくう。


「なんて、きみに言っても理解できないか。きみもお父さんも、平和第一主義だもんね。でも、聡明なきみもひとつだけ勘違いしてるよ」


考えが追いつかない私に構わず、雅くんはひとりで語り続けた。


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