イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「全然帰ってこねぇから、探しにきてみたらこれだ」


怒ったようにそう言って、剣ちゃんは視線を転じる。

後ろによろけた雅くんは胸もとのワイシャツを整えながら、私と剣ちゃんを見比べた。


「きみ、本当に毎回タイミングが悪いよね」

「タイミングがいいの間違いだろ」


バチバチとした一触即発の雰囲気に、廊下には誰もいなくなっていた。

雅くんの家の権力は強いから、できることなら誰も関わり合いになりたくないんだろう。


「いい機会だから言っておく。俺は愛菜が好きだ」


雅くんの前で言い切ってくれる剣ちゃんに、私の心臓が大きく音を立てる。


「俺の全部をかけてもいいって、そう思えるやつなんだよ。だから愛菜を泣かすなら、手加減なんてしてやらねぇ。本気で潰す」


剣ちゃんはまるで強張った私の心をほぐすように、想いを言葉にしてくれた。

それにうれし涙がぽろっとこぼれたとき、雅くんがイラ立たしそうに爪を噛む。


「あー、もう。こんなにむしゃくしゃするのは久々だよ。でもね、俺はきみと剣斗くんが両想いだろうと、どうでもいいんだ」

「お前が入る隙はねぇって言ってんだろうが」

「きみたちを見てたら、どんどん自覚するよ。俺の心をかき乱す愛菜さんが憎くて愛しいってね」


狂気的なまでの愛情に、手足が震える。

すぐに両腕で自分の身体を抱きしめるけれど治まらず、その場に崩れ落ちそうになった。


「ふざけるなよ。お前は屈折しすぎだ」


冷静に指摘する剣ちゃんの声が間近に聞こえて、すぐに力強い腕に抱きとめられる。


「お前に愛菜は渡さねぇって言ってんだよ」


その腕の強さに、剣ちゃんの言葉が本心から出たものだとわかる。

私は甘えるように、目の前の温かい胸に顔を埋めた。

こうしてると、落ち着く。

剣ちゃんの体温に、ようやく息をつけた気がした。


「それにな、気持ちを押しつけんのは愛情じゃねぇぞ。ただの独りよがりだ」


剣ちゃんは私をいっそう引き寄せ、鋭い眼光で雅くんを見すえる。


「これ以上、お前と話してても無意味だ。さっさと俺たちの前から消えろ」

「今は俺が引いてあげる。だけど……俺は諦めてないからね、愛菜さん」


最後にふっと笑って、雅くんは離れていく。

すると雅くんの周りには、教室から様子をうかがっていたファンの女の子たちが集まった。

私は雅くんの背中を見送りながら、胸に渦巻く不安に耐えきれずつぶやく。


「私は……どうしたらいいんだろう」


雅くんの行動を止められないと、またこうして襲われることになる。

思い悩んでいると、剣ちゃんが私の頭を自分の胸に引き寄せた。


「どうもこうもねぇよ。お前のことは俺が守る」

「剣ちゃん……」

「つーか俺、これからお前のトイレにもついていかないといけねぇのかよ。更衣室に続いて、ますます犯罪者に間違われるじゃねぇか」


げんなりしている剣ちゃんには申し訳ないけれど、悩んでいる理由がなんだかおかしくて、私はくすっと笑ってしまう。

すると、剣ちゃんが私の髪をわしゃわしゃとかき回す。


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