イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「まあ、なんだ。お前はそうやって笑ってろ」

「ふふっ、うん。ありがとう」


さっきまで怖くてたまらなかったのに、剣ちゃんに触れられだけで嫌な記憶が吹き飛ぶみたい。

不思議な安堵感に包まれて、私は自然と剣ちゃんに笑って見せた。



「えーと、着方あってるかな?」

学校が終わり、屋敷に戻ってきた私は萌ちゃんからもらったヴェラの新作に身を包んでいた。


「これは……メイド服?」


うちにいる使用人さんたちが着ているものより、フリルが多くて色もカラフルだけれど、デザインは似ている。


「丈は短いし、胸元も開きすぎかな? こんなハイソックス、履いたことないから不思議な感じかも」


私は鏡台の前に立って、約束の写真を撮ると萌ちゃんに送った。

それから、私がやらなきゃいけないことは……。

萌ちゃんから指示されたことを思い出す。

剣ちゃんの給仕だ!


「でも、なにをすればいいのかな」


考えを巡らせていると、萌ちゃんから返信がくる。

【愛ぴょん、かわいいいっ! それから、ケンケンへの給仕はできたかな?】

私はワラにもすがる思いで、即座に【実はなにをすればいいのか、思いつかなくて】と返した。

するとすぐに、スマホがピコンッと音を立てる。

画面を確認すると【困っているだろう親友のために、萌からアドバイスだよ】というメッセージとともに給仕の項目が送られてくる。

①料理を振る舞うべし。
②ケンケンの膝の上に座って、料理を食べさせてあげるべし。
③着替えを手伝うべし。
④ケンケンが眠るまで、頭を撫でてあげるべし。


「わあ、さすが萌ちゃん!」


私は【ありがとう】と返して、私は手料理を振る舞うために部屋を飛び出した。

そのまま大きな厨房に足を踏み入れる。

そこにいたシェフや使用人たちは、私の姿に目をむいて驚いていたけれど、私のわがままで今日だけ食事の支度を休んでもらった。


「さて、やるぞ!」


私は気合を入れてお母さんに習ったお味噌汁やブリの照り焼き、だし巻き卵に切り干し大根の煮物を作る。


「剣ちゃん、家では和食が多かったって言ってたし、喜んでもらえるといいんだけど……」


わくわくしながら料理を終えると、私は剣ちゃんが待っているリビングへ行った。


「失礼いたします!」


私は使用人の人たちにも手伝ってもらって、料理を中に運び込む。


「なっ、お前……」


剣ちゃんは私を見て、信じられないというように何度も目をこすったあと、驚愕の表情のままフリーズした。

すべての料理を並べ終わると使用人の人たちには下がってもらって、部屋にはふたりきりになる。


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