イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「剣ちゃん、これ私の手作りなんだ。お口に合うといいんだけど……」

「まず、その格好の説明を求める」


剣ちゃんは怖い顔をして言った。


「え? これ、萌ちゃんからのプレゼントだよ。ほら、今日の昼休みにもらってたでしょ?」


くるりとその場で回って見せると、剣ちゃんはすぐさま私から視線をそらす。


「こんの、バカ! スカート短けぇのに、あんまし動くんじゃねぇよっ」

「でも、かわいいよね」

「それはまあ……って、なに言わすんだよ!」

「ええっ、なんで怒ってるの!?」

「自分の胸に手を当てて考えろ」


言われた通り胸を押さえて心当たりを探す。

うーん、うーん……。


「ごめんなさい、わかりません」

「……あ?」


今まで史上、ドスがきいた「あ?」だった。

私は剣ちゃんの顔色をうかがいつつ、びくびくしながらも一応伝えておく。


「あ、あのね。私は今日剣ちゃんの給仕係なので、そこのところよろしくね」

「よろしくね、じゃねぇ。今すぐ着替えてこい。この屋敷にも男がわんさかいるってのに、危ねぇだろうが」


私よりも落ち着かない様子で人目を気にしている剣ちゃんに、私はにっこりと笑う。


「大丈夫! もう剣ちゃんにしか見せる予定ないから」

「なにが大丈夫なのか、わからねぇ」


どっと疲れたような顔をする剣ちゃんに、私は今のうちだとばかりに近づいた。


「ケンケンの膝の上に座って、料理を食べさせてあげるべし」

「――は?」


口を半開きにしたまま目を点にする剣ちゃんの膝の上に、私は強引に座る。


「では、どうぞ!」


私はまず、お箸でだし巻き卵を剣ちゃんの口に運んだ。


「いや待て、この状況で食えるわけねぇだろ。お前な、急になにを始めてんだよ」

「えっと、萌ちゃんの給仕リストを実行しようかと思いまして……」

「給仕リスト? なんだそれ」


顔をしかめる剣ちゃんに、①から④までの給仕リストを伝える。

すると、みるみるうちに剣ちゃんのまとう空気が張り詰めていくのがわかった。

怒ってる……これは怒ってる!


「あ、でも! これはいつも私を守ってくれる剣ちゃんへの日頃の感謝も込めて、恩返しっていうか、その……嫌かな?」

「嫌とか、そういう話じゃねぇんだよ」


剣ちゃんはもごもごとつぶやくと、私の腰をぐいっと引き寄せる。


「仕掛けてきたのは、そっちだからな。俺を挑発しておいて、ただですむと思うなよ」


熱っぽい瞳に捉われて、ぼーっとしてしまった私はうっかりだし巻き卵を落としそうになった。


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