イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「じゃあそれ、食わせてみろよ?」


剣ちゃんは真顔でだし巻き卵を顎でしゃくってみせる。


「う、うん……」


言われた通りにその口に運ぶ間、剣ちゃんは私から少しも視線を外さなかった。

見られてると落ち着かないよ……。

どきまぎしながら、私は剣ちゃんにご飯を食べさせる。

ううっ、なんで無言?

静かすぎて、なんか恥ずかしくなってきた。

私は限界がきて、箸を置く。


「なんだよ、もう食べさせてくんねぇの?」

「いや、あの……視線が気になって」


剣ちゃんの視線から逃れるように下を向けば、顎をくいっと持ち上げられる。


「だろうな。俺、今愛菜のこと男の目で見てっから」

「お、男の目って?」

「それ、聞いて後悔しねぇか?」


剣ちゃんの目が怪しく光る。

怖さと好奇心とがせめぎ合って、私はぎゅっと剣ちゃんのワイシャツを握りしめた。


「し、しない……っ。好きな人の考えてること、ちゃんと知りたいから」

「じゃあ教えてやるよ」


剣ちゃんは私の腰を撫でながら、ゆっくりと顔をかたむけて唇を重ねてきた。


「んんっ……!」


頭の芯までとろけそうになるキスに、身体から力が抜けていく。

長い時間触れ合っていた唇が離れると、私は剣ちゃんの肩に頭をもたれかけてぐったりとする。

「これが、こうしてお前に触れて、独占したいって思ってる男の目だ。覚えとけ」

「は、はい……」

「これにこりたら、軽はずみに男をあおんなよ」


はい、身にしみました。

コクコクとうなずくと、剣ちゃんはへばっている私を横抱きにしてお風呂場に連れていく。


「あの、なんでここに?」


私を床に下ろすと剣ちゃんは腕を組んだ。


「そういや、萌の送ってきた給仕リストに『着替えを手伝うべし』っつーのがあったよな」


私の質問には答えずに、剣ちゃんは新たな話題をぶっこんでくる。


「うん? うん、でも……」


やったら剣ちゃん、怒るよね。

そう思って、給仕リストは料理を食べさせてあげるところで終了する予定だったんだけど……。


「今日は俺が主人みたいなもんだろ?」

「そう、だね」


なんだろう、この胸騒ぎ。

嫌な予感がしながら剣ちゃんを見上げる。


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