イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「愛菜」


鼓膜をくすぐるような囁き。

甘く低い声にぞくぞくと全身がしびれる。

剣ちゃんは私を後ろから抱きしめると、肩に顎を乗せてきた。


「お前さ、自分からは俺に触るくせに、俺から触られるとすっげぇ恥ずかしがるよな」

「もしかして、さっき私のやったこと根に持ってる?」


私は先ほどメイド服を着たり、ご飯を食べさせてたりしたときの剣ちゃんの反応を思い出す。


「どうだかな」


ううっ、絶対に仕返しだ!

私が剣ちゃんの腕の中でカチコチに固まっていると、剣ちゃんはぶっと吹きだした。


「動揺しすぎじゃね?」

「だって……好きな人とこんなにくっついてるんだもん。ドキドキして、どうしていいかわからなくなっちゃう」

「お前……っ、はぁ。ほんとに自覚がないって怖ぇな」


剣ちゃんのため息がうなじにかかる。

わっ、くすぐったい。

思わず声をあげそうになったとき、剣ちゃんが私の顎を後ろから持ち上げる。

そして、ちゅっとわざと音を立てるようにキスをした。


「剣ちゃん……」


ふわふわした気分になって、私は剣ちゃんをぼんやりと見上げる。

すると剣ちゃんは私の顔をまじまじと眺めて、頬を指先でくすぐってくる。


「やべ、かわいいな……お前」


余裕がなさそうにつぶやくと、剣ちゃんは何度も何度も唇を重ねてくる。


「まだ足らねぇ」

「んんっ」


もうダメだ、頭が沸騰しそう。


というか、だんだん意識が……。

目の前がかすんでいき、ぼんやりと剣ちゃんのシルエットだけがかろうじて確認できる。


「おいっ、愛菜!」


剣ちゃんの焦ったような声が聞こえたけれど、もう私は目を開けることができなかった。

「――はっ」


パチッとリモコンのスイッチを入れるように、目を覚ました私は事態を把握できなくて周囲に視線を巡らせる。

あれ、私……。

剣ちゃんとお風呂に入って、それでどうしたんだっけ?

考えようとすると頭がズキズキしだして、思わず顔をしかめる。


「起きたのか?」


声が聞こえてベッドサイドを見ると、丸椅子に座った剣ちゃんが私をうちわであおいでいた。


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