イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
海外の留学生
翌日、登校してすぐに剣ちゃんは鬼の形相で萌ちゃんの席にバンッと両手をついた。
「萌、いらんこと吹き込んだのはお前だな」
「えー、感謝されるならわかるけど、そんなふうににらまれるようなことした覚えはないぞ? ケンケンだって楽しめたでしょ?」
机に頬づえをついて、にっこり笑いながら小首をかしげる萌ちゃんに、剣ちゃんはぐっとうめいて押し黙る。
それを静観していた学くんは、ふたりを眼中に入れないように私を振り返った。
「今日、このクラスに留学生が来る。とは言っても、一ヶ月限定だがな」
「そうなんだ! どんな人なの?」
「……とある国の王子だ」
「うん?」
聞き間違いじゃなければ、今〝王子〟って聞こえたような……。
私が呆気にとられていると、学くんは疲れ切った表情で眼鏡を指で押し上げた。
「ヨーロッパの、小さくはあるが歴史のある国の王子でな。古くから親交がある日本への知識を深めるのと、社会勉強が主な留学の目的らしい」
「そ、そうなんだ」
「そこで学園滞在中の王子のサポートを俺が一任されている」
「それは責任重大だね。でも、生徒会長の学くんなら、適任だよ!」
珍しく浮かない顔をしている学くんを励ましていると、私たちの話を聞いていた萌ちゃんが興味津々に振り返る。
「ええっ、本物の王子様が留学に来るの!?」
その声にクラス中の視線が萌ちゃんに集まる。
頭を抱える学くんの肩に、剣ちゃんが手を載せた。
「騒ぎを起こしたくないなら、萌のいないところで話をするべきだったんじゃねぇの?」
「正論だな」
学くんは苦い顔をする。
剣ちゃんは窓枠に腰かけると、腕を組んで絶望のオーラをまとった学くんを見た。
「お前にしては珍しい失態だな。やっぱ学でも、桁違いなVIPの世話係は緊張すんのか?」
「ああ。先日、この学園で身代金目当ての事件が起こったばかりだろう。この状況で王子を迎えて、なにかあったら国際問題に発展する」
思ったより重大な任務を背負ってるんだな、学くん。
いたわるつもりで、私は学くんの机にチョコレートを置く。
「甘い物でも食べて元気出して。私になにか手伝えることがあるなら、言ってね? ほら、校内の案内とか!」
「ああ、助かる」
この前の学園で起きた事件のときでも動じることがなかった学くんが、緊張しているのがわかる。
こんな学くん初めて見たかも……。
なんとしても助けてあげないと!
そう意気込んでいたとき、教室の扉が開く。
「おや、なんだか騒がしいね。留学生のことはもう広まってしまったかな」
中に入ってきた担任の先生に続くように、金髪碧眼の男の子が現れた。
その瞬間、クラスの女子の目が輝いた。
それもそのはず、彼の透き通るような白い肌に整った目鼻立ちや立ち姿は、その肩書きがなくても高貴な雰囲気をまとっていた。
まさに、女の子なら誰もが憧れる理想の王子様。