イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。

危険なトライアングル

数日後、学園ではディオくんの歓迎会が行われていた。

日本の文化に触れてもらおうと、各クラスごとに出し物――和服の着付けや茶道、弓道体験ができるブースが教室や体育館などに設置されている。

学園総出のちょっとした文化祭みたいなものだ。


「王子ひとりのために、VIP待遇だな」


窓に寄りかかって気だるそうに後頭部で両手を組みながら、剣ちゃんはあくびを噛みしめている。


「でも、ディオくんのおかげでこんなに可愛い着物が着られるんだもん。感謝しないと!」


興奮しながらそう言った萌ちゃんはくるりと回りながら、持参したロリータテイストあふれる着物を披露した。


「そうだね。いろいろ怖いことがあったあとだから、こうして学園全体で楽しいことをするのはいいのかも」

「さっすが愛ぴょん! わかってるっ」


ひしっと抱きついてくる萌ちゃんがかわいくて、私はふふっと笑う。

着物の着付け体験の出し物を担当することになった私たちのクラスは、全員着物着用。

なので、剣ちゃんは真っ黒の紋付き袴を着ていた。

なんだか武士って感じで、かっこいい。


「愛ぴょんは着物を着てると、どこかのお姫様って感じがするよね!」

「そうかな? 私は着物に着られちゃってる気がするんだけど……」


萌ちゃんにほめられて、改めて自分の姿を見下ろす。

私が着ているのは、薄い水色の生地に菊の花が描かれた着物。

これはうちのクラスの生徒の実家――京都の有名な呉服店が手配してくれたものだ。


「そんなことないよ? いつもはかわいいけど、今日は綺麗っ。ね、ケンケンもそう思うでしょ?」


萌ちゃんがむふふっと意味深に笑いながら、剣ちゃんに同意を求める。


「萌ちゃん、恥ずかしいからそんなこと聞かないでっ」


慌てて止めに入ると、剣ちゃんは私から目をそらしつつ、首に手を当てながら近づいてきた。


「剣ちゃん?」


私の前で足を止めた剣ちゃんを見上げると、顔が真っ赤だった。


「おい、それ脱げ」

「ええっ、無理だよ! 着物着用は決まりだし……」


剣ちゃんの無茶なお願いに困っていると、みんなから隠すように腕の中に閉じ込められる。


「お前のこの格好みたら、男連中が変な気起こしかねないだろ。お前がかわ……」

「ああ、愛菜。とってもキュートです。やっぱり、着物はいいですね!」


どこからか明るい声が飛んできて、剣ちゃんの言葉はさえぎられる。


「ディオ、俺のセリフ取るんじゃねぇ」

「剣斗がスマートに女性をほめられないから先を越されるのです。素直に自分の非を認めたらどうですか」


顔を合わせれば、お決まりのように火花がバチバチと散ってしまうふたり。

その半歩後ろには、抹茶色の着物を身に着けた学くんの姿もあった。


「付き合いきれんな」


今までディオくんを案内して各クラスを回っていた学くんは、げっそりしている。

それもそのはず、ディオくんをひと目見ようと女の子たちが教室に押し寄せてきているからだ。

きっと、案内している最中も女の子に囲まれて大変だったんだろうな。


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