イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「ディオくん、うちのクラスにご案内しますよ」

「なに言ってるのよ、茶道教室にいらして? 茶道家家元のご令嬢から直々に教えてもらえるんですのよ」


わぁー……。
女の子の群れに道をふさがれてる。


「お、押しくらまんじゅう? ディオくん、すごい人気なんだね」


唖然としていると、学くんは眉間を指で揉む。


「さっきよりもひどくなっているな。矢神が加わったからか……」

「え?」

「矢神は態度こそ粗暴だが、見てくれはいい。密かにファンも多いぞ」


学くんの視線を辿るように剣ちゃんを見る。

すると、話しかけずに遠くから剣ちゃんを眺めている女の子たちが大勢いた。


「今日も野獣の雰囲気を醸し出していますわね」

「ええ、あの危ない男感がたまりません」

「それに、とってもお強いわよね。守られたいっ」


女の子たちのひそひそ声を聞きながら、改めて剣ちゃんがモテることを知る。

忘れてたな。
そういえば、剣ちゃんはイケメンだった。


「忘れてたって顔だな」

学くんに心の中を見透かされて、どきっとした。


「うん……ちょっと不安になってきちゃった」


今さらって感じだけど、私以外にも女の子はたくさんいるわけで……。

ましてや危険ばかり呼び寄せる私より、普通の女の子が彼女になったほうが剣ちゃんは幸せなんじゃないかな。

そう思うと、剣ちゃんが私といるメリットなんてないんじゃ……。

嫌な考えばかりが頭の中を堂々巡りして目を伏せると、学くんの柔らかな声が頭上から降ってくる。


「自分の家柄を引け目に感じているのか」

「あ……もう、学くんには隠し事できないね」

「森泉は考えてることが顔に出るからな」

「うっ」


頬を両手で押さえると、学くんは私を見て少しだけ口もとをゆるめる。


「危険を引き寄せるから、矢神のそばにいていいのか不安……ってところか」

「ここまでくると、学くんはエスパーだね。うん、剣ちゃんが私を好きでいてくれてるのは知ってるんだけど、どうしても考えちゃうの」


だって私は……学校生活に私生活。

剣ちゃんから普通をたくさん奪っちゃったから。


「私といて、剣ちゃんは本当に……」

「幸せなのか、矢神の気持ちを知りたい……か」

「え?」


学くんの顔が間近に迫って、目の前が陰る。


「手間ではあるが、森泉にはディオ王子に付き合わせた借りがある。それをたしかめる手伝いをしてやろう」

「う、うん?」


その言葉の意味がわからず、曖昧な相づちを打ったとき、学くんが私を抱き寄せた。


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