イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「そろそろ行くぞ。森泉、ディオ王子を呼んでくれ」

「あ、うんっ」


黙り込んでいる剣ちゃんが気にかかったけれど、私は女の子たちに囲まれているディオくんに声をかける。


「ディオくーん! 行くよー!」

「……! すみません、レディたち。私のプリンセスが呼んでいるので、通してください」


謝りながらこちらにやってくるディオくんに、学くんは呆れている。


「俺の時とは違って、腹立たしいくらいに素直だな」

「ははは……」


乾いた笑みが出る。

私は学くんに怒られると、先生にしかられてる気分になるから、つい言うことを聞いちゃうのにな。

萌ちゃんの場合は閣下って呼びながら従順に従ってるし、剣ちゃんも不満を言いつつ、なんだかんだ学くんを信頼して動いてる。

なのに学くんを翻弄するディオくんって勇者かも。
いや、さすがは王子様。


「俺がなにを言っても、ディオ王子は声をかけてきた女性をないがしろにはできないと、ひとりひとり相手をして歩いていた。おかげで、まったく足が進まなくてな」


生徒会長で学園理事長の息子である学くんだから頼まれたんだろうけれど、ディオくんの扱いに苦戦してるみたい。


「ディオくんは博愛主義者なのかも。ほら、王子様だから国民全員愛してるっていう」

「愛するのは勝手だが、自由すぎる。森泉、王子が役目を果たせるようにしっかり手綱を握っておいてくれ」


王子って呼んではいるけど、学くんの中でディオくんは、きっと馬かなんかなんだろうな……。

先が思いやられるけれど、私たちは出し物を見て回る。

まず足を運んだのは書道教室だった。


「愛菜、これはなんというのですか?」

ディオくんが顔を覗き込んでくる。

「書道だよ。墨と筆で文字を書くの。ディオくんもやってみたらどうかな」


紙と筆を準備してあげると、ディオくんはなぜか【豚肉】と書いた。


「えっ、なんで? なんで豚肉!?」

「萌です。日本語を知りたいとお願いしたら、教えてくれました」


萌ちゃん、なんて突拍子もない単語をチョイスしたんだろう。

絶句していると、学くんは半目になる。


「やはり宇宙人だな、花江は……ディオ王子、まず日本語を聞く相手を間違えている」

「そうですか? では、愛菜……」


床についていた手に、ディオくんの手が重ねられる。


「手取り足取り、愛菜が教えてください。そうですね、まずは日本の愛の言葉のひとつでも……」

「ほかのやつをあたれよ」


ディオくんの言葉をさえぎったのは剣ちゃんだった。

剣ちゃんは澄ました顔をして、筆を持ったディオくんの手をつかむと……。

そのままディオくんの顔にヒゲを描き、べーっと舌を出す。


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