イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「何度も忠告したのに聞かねぇから、こうなるんだよ」
状況が呑み込めていないディオくんは、女子生徒から手鏡を借りて自分の顔を見る。
「剣斗……あなたの嫉妬はときに、素晴らしい芸術を生み出すのですね」
「……は?」
「私の美しさに磨きがかかりました」
墨汁のヒゲを満足そうに自慢しているディオくんに、剣ちゃんがぽかんと口を開ける。
「いや、ここは悔しがれよ」
「なぜです? ヒゲのある私も美形ではないですか」
「あぁ、そうかよ。もういい」
早々に説明を諦めた剣ちゃんの隣に、学くんが立つ。
「自分に酔っている人間には、効かなかったようだな」
「幸せだな、ある意味」
「敗北の原因は、墨汁でヒゲを描くなんていう矢神の小学生並みな報復にあると思うが」
「うるせぇ」
ふいっとそっぽを向いた剣ちゃんだったけれど、少しして視線を私に寄越す。
「これからは手加減しねぇ。どんだけ俺に想われてんのか、とことん教え込んでやるって決めた」
「え……?」
どういう意味?
きょとんとしていると、剣ちゃんが片手で私の前髪をかき上げる。
「そばにいていいのかなんて、そんなこと考える余裕もなくなるくらい俺の気持ち全部ぶつけてやるから」
こつんと優しく額が重なって、剣ちゃんの熱っぽい瞳が間近に迫る。
周りに人がたくさんいるはずなのに、剣ちゃんのことしか視界に入らない。
「いっそディオくらい振り切ってみてもいいかもな。ここでキスでもすりゃぁ、お前に手ぇ出すバカもいなくなるか?」
「え、えっと、ここは人が……っ」
「あぁ、そうだな」
あれ、素直に引き下がってくれた?
ふたりきりのときは意地悪して、絶対にやめてくれないのに……。
驚いていると、剣ちゃんの親指が私の唇をふにっと押して、それから輪郭をなぞる。
「お前のこんな顔、誰にも見せてやる義理はねぇな。俺だけのものにしたい、俺だけが知ってればいい。そう思ってんだけど、まだ不安か?」
「へ? ええっ、わわっ」
もう、自分がなにを言っているのかがわからない。
とにかく恥ずかしいので、私は剣ちゃんの胸を押し返すと距離をとる。
でもそれを許さないとばかりに、剣ちゃんは私の手首をつかんで引き寄せる。
「逃げんな」
「だ、だって……」
「そばにいたら迷惑がかかるとか、バカげたこと言って離れていこうとしても、逃がす気ねぇぞ。俺から離れられると思うな」
私から手ばなしても、剣ちゃんは離さないって言ってくれてる。
そんな束縛にも似た告白に、私はどうしようもなく安心してしまうのだった。
状況が呑み込めていないディオくんは、女子生徒から手鏡を借りて自分の顔を見る。
「剣斗……あなたの嫉妬はときに、素晴らしい芸術を生み出すのですね」
「……は?」
「私の美しさに磨きがかかりました」
墨汁のヒゲを満足そうに自慢しているディオくんに、剣ちゃんがぽかんと口を開ける。
「いや、ここは悔しがれよ」
「なぜです? ヒゲのある私も美形ではないですか」
「あぁ、そうかよ。もういい」
早々に説明を諦めた剣ちゃんの隣に、学くんが立つ。
「自分に酔っている人間には、効かなかったようだな」
「幸せだな、ある意味」
「敗北の原因は、墨汁でヒゲを描くなんていう矢神の小学生並みな報復にあると思うが」
「うるせぇ」
ふいっとそっぽを向いた剣ちゃんだったけれど、少しして視線を私に寄越す。
「これからは手加減しねぇ。どんだけ俺に想われてんのか、とことん教え込んでやるって決めた」
「え……?」
どういう意味?
きょとんとしていると、剣ちゃんが片手で私の前髪をかき上げる。
「そばにいていいのかなんて、そんなこと考える余裕もなくなるくらい俺の気持ち全部ぶつけてやるから」
こつんと優しく額が重なって、剣ちゃんの熱っぽい瞳が間近に迫る。
周りに人がたくさんいるはずなのに、剣ちゃんのことしか視界に入らない。
「いっそディオくらい振り切ってみてもいいかもな。ここでキスでもすりゃぁ、お前に手ぇ出すバカもいなくなるか?」
「え、えっと、ここは人が……っ」
「あぁ、そうだな」
あれ、素直に引き下がってくれた?
ふたりきりのときは意地悪して、絶対にやめてくれないのに……。
驚いていると、剣ちゃんの親指が私の唇をふにっと押して、それから輪郭をなぞる。
「お前のこんな顔、誰にも見せてやる義理はねぇな。俺だけのものにしたい、俺だけが知ってればいい。そう思ってんだけど、まだ不安か?」
「へ? ええっ、わわっ」
もう、自分がなにを言っているのかがわからない。
とにかく恥ずかしいので、私は剣ちゃんの胸を押し返すと距離をとる。
でもそれを許さないとばかりに、剣ちゃんは私の手首をつかんで引き寄せる。
「逃げんな」
「だ、だって……」
「そばにいたら迷惑がかかるとか、バカげたこと言って離れていこうとしても、逃がす気ねぇぞ。俺から離れられると思うな」
私から手ばなしても、剣ちゃんは離さないって言ってくれてる。
そんな束縛にも似た告白に、私はどうしようもなく安心してしまうのだった。