イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。




すべての出し物を見終わって自分のクラスに戻ってくると、クラスの女の子に呼ばれた。


「森泉さん、この廃材を捨ててきてほしいんだけど、いいかな?」

頼まれたのは歓迎会で使った段ボールの山。

すでにまとめられて台車に載っていたので、私は「うん、行ってくるよ」と引き受ける。

すると、剣ちゃんはすっと横から私が押していた台車の取っ手をつかんだ。


「俺がやる。ただ、お前をひとりにはできねぇから、一緒についてこい」

「うんっ、ありがとう」


迷わず手伝ってくれる剣ちゃんを見上げて、私はうれしい気持ちを隠さずに笑顔をこぼす。


「なら、私もご一緒します。愛らしい愛菜ともっと話をしたいですから」


ヒゲを落としたディオくんがすっと隣にやってきて、私の顔を覗き込んだ。

その綺麗なブルーの瞳に目を奪われていると――。


「近いんだよ、離れろ」


耳もとで聞こえた声に、ドキッとする。

剣ちゃんは台車を押しながら、片手で私を引き寄せた。


「堂々と人の女を口説くんじゃねぇ。ほかの女ならいいけどな、愛菜だけは王子だろうが御曹司だろうが、誰にもやらねぇからな」

「剣ちゃん!?」


普段なら、絶対にこんなこと言わないのに……。
さっきもだけど、どうしちゃったの!?

驚きで口をパクパクしてしまう私に、剣ちゃんはムッとした表情で顔を近づけてくる。


「隙を見せんなっていつも言ってんだろうが。今日は特に……かわいい格好……してんだからよ」


気恥ずかしそうに目をそらしながら、剣ちゃんは私の着物姿をほめてくれる。

どうしよう……すっごくうれしいっ。

波のように押し寄せてくる幸福感に、私は剣ちゃんの着物の袖を掴む。

そうして、なぜか3人で廃材を捨てに行くことになった私たちは台車があるのでエレベーターを使うことにした。


「この学園は楽しいですね」


エレベーターに乗り込むと、ディオくんがぽつりとそうこぼした。

なんだろう、今の言い方……。
少し寂しそう?


「ディオくんの学校は楽しい?」


気づいたら、そう聞き返していた。

ディオくんは困ったように笑って、天井を見上げる。


「私の学校はここと同じように、資産家や王族の者が通います。だけど……」


一度口をつぐんだディオくんは、笑顔をしぼませていく。


「常に王家の名に恥じない振る舞いが求められて、発言や行動には気を遣うのです」

「ディオくん……」

「学校で大声で笑うようなことはないし、本音でぶつかってきてくれる人は誰もいません」

「じゃあ、ここに来て少しは素のディオくんでいられた?」

「はい! 愛菜や剣斗みたいに、ありのままの自分をさらけ出してもらえて、うれしかった」


なんだか、ディオくんの気持ちがわかるな。

お父さんの付き添いで社交界に出たとき。

そこで出会うのは、ほとんどが人を蹴落とすための弱みを探りにくる権力者ばかり。

駆け引きや社交辞令が飛び交うそこは、息がつまりそうだった。

でも、私はそこで剣ちゃんに出会った。

森泉議員の娘ではなく、愛菜として見てくれた人。
私にとって奇跡みたいな瞬間だった。


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