イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「教室には学も萌もいる。俺たちが戻ってこなければ、さすがに探しにくるだろ」

「そうです。学は頭がいいですから、私たちの居場所はすぐにわかると思います」


ふたりとも……。

こんなことを言ったら、怒られちゃうかもしれないけど、ふたりが一緒でよかった。

みんなでエレベーターの壁に背を預けながら、床に腰を下ろして救助を待つ。

けれども、数十分経過してもいっこうに助けは来ない。

しかも、やけにエレベーターの中が暑い。


「空調止まってねぇか?」


剣ちゃんが着物の胸元のあたりを掴んで、パタパタとあおぎながらエレベーターの天井を見上げる。

学園のエレベーターにはエアコンが設置されているけれど、今は夏じゃないので送風機能しかつけられていなかった。

でも、その送風すら止まっているみたい。


「真夏でなくても、この密閉空間では熱がこもります。送風機が止まったのは、危険ですね。とりあえず上着を脱いで調節しましょう」


ディオくんはそう言うけれど、私も剣ちゃんもこんなときに限って着物だ。

脱ぐとなると肌着だけになるんだけど……。
背に腹は代えられない!


「ディオ、壁のほう向いてろ。ぜってぇに愛菜を見んじゃねぇぞ」


剣ちゃんににらまれたディオくんは苦笑いしながらも、背を向けてくれる。

着物に手をかけた私の後ろで、剣ちゃんも袴を脱ぐと私たちは肌着の格好で座り直した。


「学ならすぐに気づくはずなのに、ここに辿りつかねぇってことは外でなんかあったな」

「原因は私かもしれませんね。狙われる理由には心当たりがありすぎるほど、ありますから。巻き込んですみません」


頭を下げるディオくんに、剣ちゃんは拳を作ると――。


「うじうじすんじゃねぇ、このうじうじホスト王子」

剣ちゃんはディオくんの脳天に拳を落とす。

「い、痛いです……」

「お前は愛菜に似てるな。そばにいたいからいる。守りたいから守ってるっつーのに、巻き込まれた? 他人行儀な言い方はやめろ」


文句をつらつらと吐き出した剣ちゃんは立ち上がると、エレベーターの扉の前に立つ。


「俺は自分で望んで、ここからお前たちを出す。そのためにできることは、いくらでもやってやるよ」


そう言って、エレベーターの扉を叩きながら「誰か、そこにいねぇか!」と叫んだ。


それを見ていたディオくんもふっと笑って腰を上げると、非常ボタンをもう一度押した。


「さっきのは失言でした。私もあなたたちとここから出られるようにがんばります」


そっか……。

剣ちゃんとディオくんのやりとりを聞いて、私ははっとする。

巻き込みたくないとか、迷惑をかけてるんじゃないかとか、それって無意識のうちに、剣ちゃんを遠ざけていたんだ。

そうだよね、私も剣ちゃんと逆の立場だったら同じことを思ったはず。

どうして、巻き込んでくれないのって。


「剣ちゃん、勝手に不安になってごめんね。私、自分のことが信じられてなかったんだ」


私は立ち上がって、剣ちゃんの隣に立つとエレベーターの扉に手をつく。


< 132 / 150 >

この作品をシェア

pagetop