イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「理由はふたつ。まず、ひとつ目はきみの父親が学園長になってから、俺の学園生活は急に退屈になったこと」

「私のお父さんが……原因?」

「そう。きみのお父さんが学園に来る前は、政治家の父がバックについていた俺に、みんな服従してくれてた」


服従してくれてた。

その言葉が私の胸にどんよりとした影を落とす。

まるで、そうされるのがうれしいみたいな言い方。

雅くんはなにを考えてるの?

彼の話を聞くたびに、不安ばかりが募る。


「なのに、きみの父親が余計なことして、平等主義が定着してから、俺の言葉に従わないやつがでできたりして、腹が立ったよ」


おもちゃを奪われた子どもみたいな理由に、私の頭は急速に冷えていく。

これまで感じたことのないような怒りがこみあげてきて、つい拳を握りしめた。

そんな私に気づいていない雅くんは、身勝手な演説をやめない。


「それだけでも許せないのに、今度は議員になって日本を平和にする気なんだろう?」

「……雅くんは人を思い通りに動かせることが楽しいの?だったら、私には理解できない」

「勘違いしないでくれないかな?」


雅くんはすっと表情を消して、私の髪をむんずとつかんだ。


「俺はきみに理解されたいなんて、少しも思ってないんだよ。あと、もうひとつの理由は最近できた」


人の髪をつかみながら、平然と話ができる雅くんに恐怖心がわく。

落ち着かなきゃ。

負けちゃダメだ。

こんな人を人とも思わない人に、情けない姿を見せたくない。

震える息を吐き出して心を落ち着けようとしていると、雅くんはふたつ目の理由を口にした。


「きみだよ、きみを好きになったから」


雅くんの好きの言葉は、やっぱりどこか薄っぺらい。

それに、すごくすごく冷たい。


「そんなの、嘘。本当に好きなら、こんなふうに私の意思を無視して、連れ去ろうとしない!」

「それはきみが剣斗くんのことばかりで、俺を受け入れないからだよ」


声を荒げる私と、落ち着き払っている雅くん。

その温度差に、また怒りがわく。


「受け入れられないからって、乱暴に奪うの?」

「そうだよ。だから強硬手段をとらせてもらったんだ」


それのなにが悪いの?と言うように、雅くんはサラリと言ってのける。


「人はおもちゃじゃないんだよ? 学園のみんなだって、私のことだって、雅くんが好きに傷つけていい理由なんてない!」


頭皮を力まかせに引っ張られる痛みをこらえながら言い返すと、雅くんは興味をなくしたようにぱっと手をはなした。


「偽善者らしい意見だね。聞いてて虫唾が走るよ」

雅くんは私の背をどんっと押す。

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