イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
『まあいい、ちょうどむしゃくしゃしてたしな。憂さ晴らしに付き合えよ』


俺は立ち上がると、ケンカを売ってきた不良をただ気を晴らすためだけに殴る。

全員を片付け終わると、俺は仲間たちに囲まれた。


『やっぱ強えな、剣斗!』


切れた口の端からにじむ血を拳で拭うと、俺は仲間たちとハイタッチを交わしながら改めて思う。

――ここが俺の居場所だ。


***


「……はぁ」


瞼を持ち上げると、俺は見慣れない天井に向かって手を伸ばす。


「俺は気に入らねぇやつをぶん殴るだけだ」


それなのに、どうしてあいつの言葉が引っかかる?
頭にリフレインするのは、『なんのために戦うの?』という愛菜の言葉。


親父に押しつけられた、面倒な女なのに……。

伸ばしていた手をぐっと握り締める。

なんでこんなにも、あいつのことが気になる?

俺が作ってきた人への壁も簡単に壊して、余裕で心に入ってこようとする女。


「でも、俺は変わらねぇ。あいつはただの警護対象で、それ以上にはならない」


まるで自分に言い聞かせるようにそう口にした俺は、握った拳を荒々しくシーツの上に落とした。
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