イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「大丈夫だよ、私がリードするから」


無理やり剣ちゃんの目の前に回りこんで、ダンスの姿勢をとるとリードしながら踊りだす。


「おい、んな強引に……うおぁっ」


なにかを言いかけた剣ちゃんが私の足を踏みそうになった。

なんとか避けようとして剣ちゃんは片足を上げたのだが、バランスを崩してしまう。


「わあっ」


剣ちゃんは私を巻き込むようにして、床に倒れる。

――ぶつかる!

衝撃を覚悟して、私はぎゅっと目をつぶった。

けれども、いっこうに痛みは襲ってこない。

むしろ、柔らかい?

困惑しつつ目を開けると、私は剣ちゃんの身体の上に乗っかっていた。


「あ……」


私をかばってくれたんだ……。

鼻先がぶつかりそうなほど近い距離にいる剣ちゃんに、私は言葉を飲み込んだ。

剣ちゃんの吐息が感じられて、私の胸の鼓動は加速する。


「…………」


お互いに無言で見つめ合って、見えない力に引き寄せられるように顔が近づいていく。


「なんでかわからねぇけど」

「うん。私もどうしてか、わからないんだけど……」


そのあとの言葉は、お互いに口にしなかった。

そうするのが自然であるかのように、唇が触れ合いそうになって――。


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