イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「……そうかよ」


ぶっきらぼうな言い方だったけれど、剣ちゃんは私の考えを否定しなかった。

ふたりの間に少しだけ穏やかな空気が流れたとき、会場の明かりが消える。


「きゃあっ」


びっくりして悲鳴をあげると、誰かの腕が腰に回って、ぐっと引き寄せられた。


「落ち着け、俺がいるだろーが。それでも怖いか?」

この声……剣ちゃんだ!

「ううん、もう怖くない」


抱き寄せてくれたのが剣ちゃんだとわかって、私は安堵する。

ホールは騒ぎになり、薄暗がりの中、参加者たちは出口に向かって走り出している。

その混乱に乗じて、目の前に黒ずくめの男たちが現れた。


「ガキ、森泉の娘を置いて下がれ。そうすれば、見逃してやる」


キラリとなにかが光る。

あれって……この人たち、手にナイフを持ってる!

もしここで私が剣ちゃんを頼ったら、剣ちゃんがケガするかもしれない。

自分をさらおうとする男たちを前に、私は思わず剣ちゃんから離れようとした。

次の瞬間――。


「余計なお世話だっての」


ぐいっと剣ちゃんの腕に、強く抱き寄せられる。


「お前も勝手に離れんじゃねぇよ。守りにくいだろうが」

「剣ちゃん……」

「なに考えてんだか知らねぇけど、俺は一度した約束はぜってぇに守る」


剣ちゃんは私を守るって、言ってくれてるんだ。

わかりづらいけど、まっすぐな剣ちゃんの思いに心が揺り動かされる。

頼っても、いいのかな。

一緒にいても厄介事しか運んでこない私が、そばにいてもいいのかな。

もし、許されるなら……。

私はためらいがちに、剣ちゃんの胸にしがみついた。

剣ちゃんから、離れたくない。


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