イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「それでいい、ちゃんとつかまってろ」


満足げにそう言って剣ちゃんが不敵に笑ったとき、「愛菜!」と呼ばれる。

視線を動かすと、お父さんがこちらに駆け寄ろうとしているのが見えた。

しかし、目の前に立ちふさがってる男たちがそれを阻止するように私たちに向かって襲いかかってくる。


「ちっ、走るぞ」


剣ちゃんが私の手を引いて、ホールの出口めがけて駆け出した。


「とりあえず、ここから出るぞ」


こちらを振り返ることなく剣ちゃんはそう言うと、ホールを出て会場の外に通じる正面玄関を目指す。

赤いカーペットが敷かれた中央階段を下りていき、出口まであと一歩というところで、先回りしていた黒ずくめの男たちに行く手を阻まれた。


「剣ちゃん……」


私は剣ちゃんの手を握りしめる。

傷つかないでほしい。

もし、剣ちゃんがケガをしたらと思うと……怖い。

そんな私の顔の気持ちに気づいたのかもしれない。

剣ちゃんは私を振り返って、ふっと笑った。


「安心しろ、前みてえにあいつらをボコボコにはしない。でねぇと、お前がうるせぇからな」

「今はそんな心配してないよ! 私はただ、剣ちゃんに無茶してほしくなくて……」

「おい、落ち着け」

「無茶言わないでっ」


大切な人を危ない目に巻き込んでおいて、平常心でいられるほど、私……強くないんだよ。


「剣ちゃんが死んじゃったら、どうしようっ」


感情が高ぶって、涙が出てくる。

ぽろぽろと頬を伝っては落ちていく雫を剣ちゃんは乱暴にタキシードの袖でぬぐってくれた。


「勝手に殺すな、バカ。こっちは親父と小せぇ頃から稽古してんだ。手加減するほうが難しいっつーうの」


バカなんて言いながら、剣ちゃんは優しく私の頭を撫でてくる。


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