イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「信じて待ってろ。いいな?」


私に言い聞かせる剣ちゃんの声は、いつもより柔らかい。


「剣ちゃん、わかった……信じてる」


だけどね、どうか無事でいて――。

剣ちゃんは私の手をやんわりと離すと、階段を数段飛ばして男たちとの距離を詰める。


「歯ぁ食いしばれよ!」


その勢いのまま、流れるような動きで剣ちゃんは男に殴りかかった。


「ぐあっ」

「寄って集ってじゃねぇと女ひとりさらえねぇクズなだけあって、準備運動にもならねぇな」


余裕を浮かべたまま、剣ちゃんは首を回している。

その姿に、男たちは激怒した。


「ちょこまかと動きやがって!」

「お前らがのん気に地蔵みてぇに突っ立ってるだけだっつうーの。あぁ、俺の動きについてこれてねぇだけか」


挑発するように剣ちゃんは口の端で笑うと、あっという間に数人の男たちを倒してしまった。


「おら、片づいたぞ」


剣ちゃんは階段下から、私に手を差し出す。

タキシードもよれよれで、頬には拳がかすったのか傷がある。

それでも剣ちゃんの瞳には揺るぎない強さが宿っていて、私はこんな状況なのに見惚れていた。

剣ちゃん、本当に勝っちゃった。

やっぱり、私のヒーローだ。

微動だにしない私にしびれを切らしたのか、剣ちゃんは階段を上がってくると私の手を取る。


「ぼさっとしてんな! 行くぞ!」


剣ちゃんに手を引かれて、一気に階段を駆け降りる。

恐怖で足がすくみそうになるけれど、繋いだ手から伝わる剣ちゃんのぬくもりに励まされて、なんとか逃げることに成功した私たちは……。


「娘を守ってくれて、ありがとう」


お父さんとも合流することができた。

「剣斗くんのおかげで、私はまた愛菜に会えた。本当に、本当にありがとう……っ」


剣ちゃんはものすごく感謝されていて、お開きになったパーティーから屋敷に帰ってくる頃には、もう真夜中になっていた。



< 57 / 150 >

この作品をシェア

pagetop