イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「真っ赤なお鼻の~♪」

「歌わないで!」


私たちのやり取りを見守っていた剣ちゃんの友だちたちも、どっと笑いだす。

にぎやかな空気のなか……。

よりいっそう手加減してくれた剣ちゃんの友だちのみんなと一緒に、私はバスケを楽しんだ。

ひとしきり身体を動かしたあと、バスケを続けているみんなを横目に私は剣ちゃんと休憩する。


「久々に疲れたな」


体育館の床に転がった剣ちゃんの首筋には、汗が伝っていた。

私はポケットからハンカチを取り出すと、剣ちゃんの首や額をぬぐってあげる。

すると、ガシッと手首をつかまれた。


「んな簡単に、男に触んな」

「あ、嫌だった? ごめんね?」

「あー……そうじゃねぇ」


歯切れ悪く言ったあと、頬をわずかに染めた剣ちゃんは、ちょっぴり怒った様子で続ける。


「そうやってなんの警戒心もなく近づいてこられると、隙あらば自分のもんにしてぇとか、そう思っちまうもんなんだよ」

「え?」


それって、剣ちゃんもそう思ってるってこと?

そんな考えが頭をよぎって、ドキンッと心臓が跳ねる。

注がれる剣ちゃんの視線から、目がそらせない。


「一応、言っておく。俺が、じゃねぇぞ。男はそういう生きもんだって話だ」


慌てて付け加えたみたいな物言いだった。


「そ、そうなんだ……。でも、私は剣ちゃんに助けられてばかりだから、なにか恩返しがしたくて……」


つかまれたままの手首が熱い。

私はドキドキしながら、自分の気持ちを伝える。


「それで、ささいなことだけど、剣ちゃんの汗もふいてあげたいなって……ダメかな?」

「だから、そういうのがまずいって……はぁ。もう、勝手にしろ」


剣ちゃんは諦めたようにため息をつき、私からぱっと手を離した。


「では、失礼して」


私はその場で正座をして、頭を下げると剣ちゃんの汗をふく。

その間、剣ちゃんは視線をそらしたままだった。

やっぱり嫌だったのかな?

心配になって顔を覗き込むと、剣ちゃんはぎょっとした表情で目をむいた。


「おいっ、予告なしに人の顔を覗き込むな」

「ご、ごめん」

「で? なんだよ」


 片眉を持ち上げた剣ちゃんに、私はおずおずと切り出す。


「あの、私の気のせいだったら申し訳ないんだけど……。最近、目が合わなくて寂しいな……なんて」

「お前、いいかげんに――」


飛び起きた剣ちゃんがなにか言いかけたけれど、すぐに本日何回目かわからない盛大なため息をこぼす。


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