イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「きゃっ」


体勢が逆転して、今度は私が剣ちゃんにベッドに押し倒されていた。


「お前、不満ありありって顔してんな。俺の気持ち、まだ伝わってねぇか?」

「いえ、もうわかりました!」


だから、解放してください!
ドキドキで、心臓が止まる前に!

恥ずかしくて泣きそうになっていると、剣ちゃんはトドメとばかりに顔を近づけてきて……。


「でも、俺がまだ伝え足りてねぇから、朝までたっぷり付き合えよ」


剣ちゃんは私の耳もとで囁くと、そのまま耳たぶを甘噛みしてくる。


「ううっ、いきなりどうしちゃったの、剣ちゃんっ」


これまでのクールな剣ちゃんがどっかにいっちゃった。

その変化にとまどっている間に、剣ちゃんは私の唇をちろりとなめる。


「嫌か?」

「い、嫌じゃないけど、これ以上したら心臓が止まっちゃうと思うんだ」

「あんまし、かわいいこと言ってんじゃねぇぞ」


剣ちゃんは頬をほんのり赤く染めて、恨めしそうに私を見下ろすと、あろうことかくすぐってくる。


「きゃーっ、くすぐらないで!」

「お預けくらった憂さ晴らしに、責任もって付き合え」


剣ちゃんにひとしきりくすぐられたあと、私は「ぜー、はーっ」と息を切らしながらぐったりする。


「剣ちゃん、容赦ない……ひどい」

「なにかで気を紛らわしてねぇと、俺自身がやばかったんだから仕方ねぇだろ」


剣ちゃんは横にごろんと転がると私を背中から抱きしめて、頭に顎を乗せてくる。


「やばい?」


私はお腹に回った剣ちゃんの腕に触れながら、聞き返した。


「歯止めがきかなくなるって意味」

「なんの歯止め? キスのことなら、ちゃんと予告してくれれば長く息を止める自信あるよ!」


やる気をこめてぎゅっと拳を握りしめる私に、剣ちゃんはぶはっと吹きだす。


「なんだよ、それ。意気込む方向性おかしいだろ。つーか、その特技はどこで身につけたんだよ」

「昔、水泳を習ってたんだけど、まったく泳げなくて。でも、先生から長く潜る天才だって言われたの!」

「ぶっ、なるほど。けどな、その特技を使わなくていいように、してる最中も息はしろ……って、なにを言わせんだ、お前は」


剣ちゃんは私の両頬を片手でつまむと、ぶちゅっと軽く潰す。

唇がタコみたいにすぼまり、私は剣ちゃんの手を軽く叩いて顔を上げた。


「はなひへー」


剣ちゃんが勝手に言ったのに!
なんで私に逆襲するのーっ。

剣ちゃんは唇をとがらせる私の顔を愛おしそうに見つめて、ふっと微笑む。


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