明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
おそらく爵位返上という事態になるだろうが、母はもともと良家の出なので、実家に戻ればなんとかなるのではないかと思う。
兄も職を持ち自立しているし。
それよりも黒木家だ。
黒木家の人たちの怒りや悲しみを思うと、胸が張り裂けそうになる。
私だってもし直正に大けがを負わされて放置されたら、許さない。
その日、仕事が終わり直正を連れて家路を急ぐと、工場から三分ほど歩いたところで、突然目の前に人が立ちふさがり足を止める。
会話を交わしていた直正からその人に視線を移した瞬間、肌が粟立ち立ち尽くした。
「真田八重」
低い声で私の名を呼んだのは、制服姿の信吾さんだったのだ。
そのうしろにはふたりの警察官が控えている。
私はとっさにその場で膝をつき頭を地面にこすりつけた。
「父が……申し訳ございませんでした。謝罪しても許されないことは承知しております。……でも、謝らせてください」
本当なら、私のほうから出向いて謝罪すべきだった。
けれども、直正を抱えてそんなこともできなかった。