明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
私にとって、女中のてるがそうだったように、いつもそばにいる心強い味方だったのかもしれない。
「八重。少し我慢してもらわなければならないが、俺を信じてほしい」
「わかっています」
なにがあってもついていく。
返事をすると、彼は私の背中を押して促した。
屋敷に入ると女中が慌てて信吾さんの父を呼びに走った。
私は広い玄関で緊張しながら信吾さんの少しうしろに立っていた。
「真田の娘だと? なにをしに来た!」
お父さまは、ドンドンと足音を立ててやって来たかと思うと、いきなり怒気を含んだ声を張りあげる。
「よくも、黒木の家の門をくぐれたものだ。帰れ!」
「本日は、彼女との結婚をご報告に参りました」
お父さまとは対照的に、信吾さんはいつもの声色で落ち着いた様子だ。
「何度も言わせるな。許すわけがないだろう。その女は、とよの仇だ」
「とよから自由を奪ったのは彼女ではありません」