明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
とよさんは姿を現さないが、このお屋敷のどこかにいるのだろう。
信吾さんが苦しげな表情で叫ぶと、すすり泣く声が聞こえてきた。
そちらの方向に目をやると、いつからいたのか、お母さまらしき人が両手で顔を覆ってしゃくりあげている。
「信吾を失うのですか? もうこれ以上は耐えられません」
「黙りなさい」
お父さまはお母さまを戒めたが、その声は小さかった。
「母上、申し訳ありません。私は大切な人を守りたい。ただそれだけです」
落ち着き払った様子でそう口にした信吾さんは、キリリと顔を上げる。
「父上。どうか、今一度お考えください。ただひとつ。今後、八重を傷つけるようなことをなさるなら、夫として父上を恨まねばなりません。度が過ぎれば、警察官としての対処も視野に入れます」