明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
信吾さんがそんな言葉を放つので目を丸くする。
おそらく、津田紡績に男たちをよこしたことをたしなめているのだ。
「本日は失礼いたします」
信吾さんはお辞儀をしたあと、私を立たせて玄関を出た。
「信吾さん……」
彼にここまでさせてしまったことに胸が痛み、顔が険しくなる。
しかし彼は私を見つめて微笑んだ。
「なにがあっても離さないと言ったはずだ。まだ覚悟できていないのか?」
「いえ……」
そんな言葉がうれしくて、目頭が熱くなる。すると彼は私を抱きしめた。
「大丈夫だ、八重。とよはきっとわかってくれる」
「……はい」
「さて、直正はいい子にしてるかな?」
何事もなかったかのようにいつもの柔らかな口調でそう漏らした信吾さんは、私の手を引いて庭を横切った。
すると大きな池をのぞきこみ、夢中になっている直正を発見した。